映画「ダンケルク」

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2017年公開。アカデミー賞3部門受賞。

監督は、バットマンシリーズをヒットさせたクリストファー・ノーラン

綺麗事ではない戦場の「リアル」を描いた映画です。

 

時は1940年5月。舞台はフランス・ダンケルク

ナチスドイツ軍の猛攻に追い込まれ、英仏連合軍35万人は包囲殲滅の危機に瀕していました。ヒトラーから不可解な進撃停止の命令さえなければ、全滅していたと言われるほどの絶望的な状況です。

 

イギリス首相チャーチルは、総力を挙げた撤退作戦を命じます。

イギリス国内から軍艦のほかに、民間の漁船やヨット等を含むあらゆる船舶800隻を総動員した通称ダイナモ作戦」です。

 

主人公は、まず包囲しているドイツ陸軍から逃れ、何人もの仲間が撃たれながらも海岸へ向かいます。

海岸では、イギリス本土へ向かう兵士たちが乗船しようと、長蛇の列をなしています。そこへ、ドイツ空軍のメッサーシュミットが襲いかかります。

ドイツ空軍は軍艦を撃沈し、ほとんど無防備な状態で桟橋や砂浜に並んでいる兵士たちを爆撃し、あるいは機銃掃射します。

 

はるか上空の彼方から、爆撃機がキーンと空気を切り裂きながら急降下し、自分たち目がけて襲いかかってくる様は本当に恐怖です。

逃げたり隠れたりする時間も場所もなく、ただ身を伏せて爆弾や銃弾が当たらないことを祈るのみ。

 

イギリス空軍も沈黙していたわけではありません。

ドイツ空軍のメッサーシュミットに対し、イギリス空軍の誇るスピットファイアが応戦します。空中戦で勝利しなければ、ドイツ空軍は地上の無抵抗なイギリス軍に襲いかかります。

イギリス空軍は優秀でしたが、イギリス本土からドーバー海峡を越えてフランスまで飛行してきており、体力的な消耗や復路の燃料の心配を抱えた状態での戦闘であり、撃墜される僚機も出てきます。

 

再び地上に目を転じると、爆撃により軍艦が沈められた後、 主人公は負傷兵を運び込むどさくさに紛れて別の軍艦に乗り込み、イギリスを目指します。

 そして、その軍艦は魚雷攻撃を受け撃沈。燃料油が漏れ広がり、海上は火の海となります。

 主人公はからくも民間の船舶に救助され、イギリス本土へたどり着きます。

 

主人公は、「勝利もせず、身ひとつで逃げ帰って来て、人々に唾を吐きかけられるのではないか?」と心配します。

実際、戦車や火砲はじめ重装備の大半を放棄して、兵士たちはほとんど丸腰で惨憺たる状態での帰還。

 

ところが、イギリス国民やマスコミは、「イギリス国民が総力を挙げて実現した奇跡の救出劇」と、あたかも大勝利したかのように喜んで迎え入れました。

この救出劇はダンケルクスピリット」として、現代もイギリス国民に語り継がれているそうです。

 

しかし、あまりの盛り上がりぶりに、チャーチルは「我々は、この救出が勝利を示すものではないということに注意しなくてはならない。撤退しても戦争には勝てない」と釘を刺したほどでした。

 

いわゆる美談ともいえる「ダンケルクスピリット」の裏側では、陸で海で空で、熾烈で過酷な犠牲が払われていました。

声高に戦争の残酷さや平和の尊さを訴えたりせず、等身大の生々しい戦場のリアルを描いた貴重な1本です。