「達人伝」感想(第182話・武人の結界)

「達人伝」感想(第182話・武人の結界)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回の「第182話・武人の結界」は,激アツです! 

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<10代目盗跖〜漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜盗跖の最期〜 

いきなり,10代目盗跖が死を迎えます。

大好きだった8代目盗跖の兄,愛し合った9代目盗跖の修(しゅう)を思い出しながら。

 

盗跖の首飾りの「跖」の字の玉が剣に切られ,飛び散ります。

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<盗跖の最期〜漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

 

いきなりなんのこっちゃ,前回までの流れを知りたいという方は,こちらをどうぞ。

ざっくりいうと,秦の異民族で構成された屈強な軍団が,不意に連合軍に襲いかかったという流れです。

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場面は変わり,盗跖の本拠地(ねぐら)。

 

舟の上で,大人たちと剣の稽古をする子ども。

やんちゃできかん気が強そうな顔は,8代目盗跖や劉邦にそっくり。

子どもの名は幹(かん),10代目盗跖の息子のようです。

 

「魚みたいに俊敏に!」「そんなんじゃ 謀幹さんは11代目と認めないよ!」と叱咤される幹。

 

「後は 頼んだよ 11代目」

母親の声が幹の頭にこだまし,同時にねぐらの岩の一部がドドドと崩落します。

崩落に動揺する大人たち4人を,舟から突き落とす幹。

 

さっき,おっ母さんの声がした。

「稽古の途中で よそ見してんじゃねえ!」

涙ぐみながら,幹は大人たちに叫びます。

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<10代目盗跖の息子・幹(かん)〜漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜引き継がれる流氓の魂〜

冒頭から鳥肌が立ち,引き込まれました。

いろいろ考えることが多くて何度も読み返し,涙がこぼれそうになりました。

 

盗跖のネックレスの玉がちぎれるのは,兄の8代目盗跖が白起と凄まじい決闘を繰り広げた際と同じ演出ですね。

あのときは,8代目盗跖の血が額に付き,ちぎれた玉が口に入った修が,9代目盗跖となる決意を固めたのでした。(単行本14巻参照)

 

玉は,代々引き継がれる「盗跖」の魂の象徴。

 

今回,11代目に玉が渡ることはありませんでしたが,「強くなれ!流氓の魂を引き継ぐ,立派な11代目盗跖になれ!」という母の声は,たしかに届いたことでしょう。

 

謀幹さん。

久しぶりに,その名を聞きました。

 

8代目盗跖の時代からのお目付役で,しばらくお見かけしていませんでしたが,いまも健在なんですね。

もしかして,11代目盗跖の「幹」という名は,謀幹さんから字をもらったのでしょうか?

 

秦の強力な異民族軍団に遭遇して突然亡くなった盗跖ですが,王欣太先生はその死を切なく,美しく描いてくれて,救われました。

 

なんせ,秦軍は首ひとつで金5千斤ゲット,ぐわっはっはーっとか言うてるので,盗跖の血まみれの生首がゴロリと出てきたり,秦王嬴政あたりが「女の首?賞金などやれるか!」と蹴飛ばしたりしないかと,ひそかに心配していました(笑)

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<引き揚げる秦の異民族軍団〜漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

 

決して,ただでは死なない。

身は滅んでも,流氓の魂は受け継がれていく。

忘れない限り,死者は生者のなかで生き続ける。

 

冒頭のこの8ページは,達人伝の「肝」が凝縮された名場面でした。

 

しかし,8代目は白起,9代目は秦王嬴政,10代目は異民族軍団によって殺されており,盗跖一族にとって,秦は本当に不倶戴天の仇敵ですね。

達人伝〜廉頗vs蒙驁〜

場面は変わり,秦軍を追撃する連合軍。

本隊を立て直そうとする秦軍総帥・蒙驁(もうごう),麃公(ひょうこう),楊端和(ようたんわ)。

それを阻止しようとする楚将・項燕(こうえん)。

 

と,そこに秦軍を蹴散らして「おおっ そこか!白馬のじいさん!」と登場した廉頗(れんぱ)。

「そう宣う(のたまう)貴公も 白馬の老将!」と応じる蒙驁。

ここに,歴戦の英雄2人が激突!

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<廉頗vs蒙驁〜漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

 

「うおおっ なんだこれは!?」「両者の切っ先から放たれる気か!」「これは…何ぴとも寄せつけぬ ふたつの武による結界!」と驚愕する項燕。

 

まさに,今回のタイトルの「武人の結界」。

廉頗と蒙驁は文字どおり火花を散らし,まばゆいばかりの圧倒的な熱量と光芒を放ち,何人も寄せつけない至高の戦いを繰り広げます。

 

電子書籍で1ページずつしか読めない方は,この見開き2ページの迫力は伝わりにくいでしょうね。漫画アクションの紙版か,コミック化された際はぜひ電子版でなく紙版でご賞味ください(笑)

達人伝〜李牧参戦   

「すごい…だけど」「それは 戰ではない!」「戦は ふたりの武人のものではない!」と,廉頗と蒙驁に割って入る李牧(りぼく)。

 

李牧の矢は,蒙驁の右腕に命中。

均衡が崩れ,撤収する蒙驁。

 

「廉頗将軍!勝利は秦都にのみあります!」「悪しからず了承願います!」という李牧。

「うむ?…」「おお そりゃ そうだ」と受け入れた廉頗は,数々の傷口から一斉に血を噴き出して落馬しそうになり,孟梁さんがおわーっと受け止めます。

 

一方の蒙驁も,廉頗に斬りつけられた傷が血を噴き出し,李牧に射られた矢を引き抜き,「私としたことが……廉頗に応じるべきではなかった!」と反省します。

達人伝〜センスとスキル〜   

何をもって勝利とするか?

 

私はセンスとスキルの話が大好きなのですが,李牧は何をもって勝利とするか,戦場の渦中にあっても冷静に全体を見渡す「センス」が秀でています。

一方の廉頗は,個と個の対決,タイマンではまず負けないという戦闘の「スキル」がずば抜けています。

 

センスは全体・綜合,スキルは部分・分割。

 

全体と部分は密接に関連しますが,勝負事において,全体は部分の総和でありません。

多くの部分で勝ったからといって,全体で勝つとは限りません。逆に,多くの部分で負けていても,全体で勝つこともあります。

すなわち,戦闘で負けて戦争に勝つ,あるいは,戦闘で勝って戦争に負ける。

 

その好例が,達人伝より少し後の時代になりますが,項羽と劉邦の繰り広げた楚漢戦争。

項羽からすれば,99勝して最後に1敗したイメージ。

項羽の戦闘スキルは無双状態で,自身が参加するあらゆる戦闘で勝ちまくったが,最後の戦争で負けた。

 

劉邦は,負けても負けても死なない限り,本当の負けではない。

どれだけみじめに逃げまくろうと,生き残ることが最優先。

 

項羽との直接対決で勝てないのはしかたない,それはなるべく避ける,それ以外の局面で勝てばよいという,しぶとくも図太い全体戦略=センスが優れていたのでしょう。

 

それは,劉邦自身というより,張良,陳平,韓信など部下のセンスが優秀だったのかもしれませんが,彼らのアドバイスを聞き,「項羽は強い,おいらは弱い。しかたないよな」と受け入れた劉邦のセンス,度量はやっぱりエラい。

 

劉邦自身は武術の腕も学もなく,たいしたスキルがなかった。

からっぽの器のようなもので,少しでもスキルやセンスがある人材はどんどん来てくれという構えだったので,有象無象も含めて優秀な人材が集まった。

 

劉邦の仕事は,「全体」をまとめあげること,すなわち「綜合」だった。

 

一方,項羽の場合,1対1で勝てる人間は当時いなかったんじゃないかというほど戦闘スキルが異常に高く,しかも名家の出身のため,庶民出身の劉邦などと比べると教養も備えていた。文武両道の優等生ってやつですね。

 

他人の評価基準が自分であり,自分よりスキルが劣るような人材は評価しなかった。

そのため人材が集まりにくく,せっかく優秀な人材がセンスのある貴重なアドバイスをくれても,なまじ自分のスキルに自信があるため,素直に聞き入れることができなかった。

 

つまり,項羽はスキルなど「分割」された「部分」の最適化に終始し,「全体」の「綜合」を行うことができなかった。

 

達人伝に戻ると,廉頗や蒙驁レベルの名将になれば,センスもスキルも高いレベルで備えていたでしょうが,項羽よろしく,廉頗も蒙驁も自身の戦闘スキルに絶対的な自信があった。

 

それは,武人の血,戦人の本能とでも呼ぶべきもので,ついつい戦局全体の流れを忘れ,引き合い,戦ってしまったということでしょう。

 

こういう人たち,個人的には嫌いじゃありません。むしろ好き(笑)

達人伝〜次代を生きる雄  

連合軍中央で指揮を執る劉邦。 

 

総司令の龐煖(ほうけん)も,「よく通る 実にいい声だ」「今しばらくは 総司令の役を預けて 気持ちよく従って戦おう!」と納得の様子。

劉邦は,右手に龐煖,左手に丹の三侠を向かわせて,秦軍を追撃します。

 

楚の春申君も「戦国四君 最後のひとりとして 秦の天下を阻む責務はわが一身にある!そう奮い立たせてきたが」「ここに 次代を生きる雄がいる!」と全幅の期待を寄せます。

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<赤き龍・劉邦漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

 

「赤き龍!次代を照らす天下の光か!」という春申君のセリフで,第182話は締めくくられます。

 

さあ,次の183話は,どのような展開になるのでしょう?

次号はお休みとのことですが,8月26日(木)にコミック30巻が発売予定。

こちらもお楽しみに!

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 <漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より>

 

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