「達人伝」感想(第186話・天が養なう力)

「達人伝」感想(第186話・天が養なう力)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は,「第186話・天が養なう力」です! 

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<荘丹(そうたん)〜漫画アクション2021/12/7発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜荘丹の秘剣①〜 

前回は,荘丹が秘剣・絶界の上を行く「遊ぶがごとき剣技」を披露したところで終わりました。

おさらいはこちらから。

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今回第186話の扉絵をめくると,秦軍総帥・蒙驁(もうごう)が首元から胸にかけてクロスに斬りつけられ,落馬しそうになっています。

これ,扉絵の「荘丹がクロスに斬撃している絵」と対応しているんですね。

 

蒙驁に駆け寄る秦将・黄壁(こうへき)。

黄壁は蒙驁を支え,からくも荘丹の追撃をかわします。

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<荘丹の斬撃をかわし蒙驁を支える黄壁〜漫画アクション2021/12/7発売号「達人伝」より〜>

 

さんざん苦しめられてきた蒙驁,さらに黄壁まで切り崩した荘丹に驚く連合軍総帥・龐煖(ほうけん),そして李牧(りぼく)と項燕(こうえん)。

 

黄壁は「そやつを止めい!斬り殺せい!」と命じるも,荘丹は無人の野を行くがごとく,スイスイと秦軍の中を突き進みます。

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<秦軍の中を進む荘丹漫画アクション2021/12/7発売号「達人伝」より〜>

 

「函谷関攻略の第一手ということか龐煖!」と焦る蒙驁。

蒙驁の狼狽ぶりをありありと見てとった龐煖は,「敵陣を切り崩すなら今だ!」と決断。

「項燕将軍 李牧将軍は それぞれ函谷関を迂回し 嶢関(ぎょうかん) 湖関(こかん)に進軍せよ!」と指示を飛ばします。

 

驚く蒙驁と黄壁。

蒙驁は,ただちに前軍の麃公に知らせ,連合軍の五関攻めに対応するよう黄壁に命じます。

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<指示を飛ばす連合軍総帥・龐煖漫画アクション2021/12/7発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜荘丹の秘剣②〜

荘丹の秘剣・絶界も凄いですが,今回の秘剣(仮に「秘剣・逍遥遊(しょうようゆう)」とでも名付けましょうか)は,持続時間が長そうですね。

秘剣・絶界は,ひと仕事すると,息が上がってハアハアとなっていました。

 

荘丹は,なぜ秦軍の中をスイスイ進むことができるのか?

それは,殺気を放っていないためではないでしょうか。

明らかな殺意や敵意を持っていない場合,人はついつい見逃してしまいます。

 

武道の世界では「後の先(ごのせん)」という言葉があります。

相手が仕掛けてきた技に合わせて返す技のことで,レベルが上がるほど先に手を出したほうが不利となるため,相手に殺気や狙いを悟らせないよう細心の注意を払います。

荘丹の場合,攻撃してくるのではなく,ただ通り過ぎるだけなので,秦軍としても自軍の伝令が通過するくらいの気分かもしれません。

 

あるいは,往年の名力士が勝負強さのコツを聞かれた際に「相手が息を吐き切って,吸う瞬間に押し切る」という話を聞いたことがあります。

人間,息を吸う瞬間,どうしても力がゆるみ隙ができる。

 

対戦系スポーツを注意深く観察していると,心拍数が激増してハアハア息切れしておかしくない場面で,呼吸を乱さず涼しい顔をしているシーンがしばしばあります。

あれは,相手に疲労を見せずプレッシャーをかける心理的な意味もありますが,息を吐き切った瞬間に攻撃を仕掛けられるリスクを避けるためでもあるのです。

 

実際,私がバドミントンをしていた際,「なんともイヤなタイミングでサーブを打ってくるな」という人がいたのですが,その人は私が息を吐き切る瞬間を見計らって仕掛けていたそうです。

 

荘丹の秘剣・逍遥遊は,フン!ハッ!と瞬間的に息を止めたり吐き切ることなく,ゆるゆるとした呼吸をしながら殺気を放つことなく,狙いを悟られることなく,水が流れるような技と推察されます。

 

ふと,漫画「北斗の拳」のトキを思い出しました。

ラオウの豪快な「剛拳」に対し,しなやかに華麗に受け流す弟トキの「柔拳」はカッコよかったなあ(笑)

達人伝〜庖丁の進化〜

連合軍の右翼から攻め上がる庖丁(ほうてい)。

伯父貴の庖丁は,3年の修行で牛を捌く達人の境地に至りました。

 

庖丁は考えます。

戦場で数十年振るってきたこの剣を伯父貴の牛刀とみなすなら,牛を捌くがごとく戦場に向き合うならば。

天の摂理にまかせ,戦場のあるがままに従い,神(しん)をもって剣を振るうならば!

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<秦軍を攻撃する庖丁漫画アクション2021/12/7発売号「達人伝」より〜>

 

「う〜んだめか…まだ進化はねえか…」と思ったものの,庖丁が剣を向けた先の秦軍の数人あるいは馬が血を吐いています。

「ん!?」と驚く庖丁。

荘丹に続き,庖丁も進化を遂げたようです!

達人伝〜新たな表現〜

庖丁が秦軍に剣を向ける上の絵,イイですね。

 

白黒を反転させる手法は,衝撃的なシーンなどで使われますが,1コマの3分の1ほど(庖丁)を普通に描き,3分の2ほど(秦軍)を白黒反転させることで,庖丁の進化した剣技が及ぶ範囲や影響がありありと感じられます。

コマの左下へ斜めにぶった斬る感じも,動きと流れが感じられて,イイ。

 

21世紀の現在,多くのアートにおいて,ありとあらゆる表現が考え尽くされ,「日の下に新しきものなし」。

では,いかにして新しい表現を生み出すのか?

他分野の表現を持ち込んだり,既存の表現を組み合わせることでしか,イノベーション(といったら少々大げさかしれませんが)的な新しい表現は生み出せないでしょう。

 

作者の王欣太先生は,とことん新しいものを創造することが好きで,逆にいうと,同じことを続けていると飽きてつまらなくイヤになってしまうのだろうと推察します。

ただ,それは,常に新しい表現,より良い表現を求めて格闘する困難な道でもあります。

 

以下は,ファンミーティングでゴンタ先生から聞いた話です。

蒼天航路」の最終回を描き終わり,夜11時から打ち上げが始まったものの,夜中3時にふと閃いて描き直したとのこと。

 

2019年ファンミーティングの感想はこちら。

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11年間に及ぶ連載が終了し,とてつもない解放感に浸っているその瞬間ですらも,「その先へ!」と至高の表現を求めずにはいられない性(さが)。

 

徹底したプロフェッショナリズムは求道者のそれですが,そこは大阪人のゴンタ先生。

孤独でつらい修行に励む修行僧のようなイメージではなく,荘丹の秘剣・絶界のように悠々と遊ぶがごときイメージ。

「これ,あかんかな?」「あれ,いいんちゃう?」とああでもない,こうでもないと自在に筆を遊ばせ,迫り来る締切のプレッシャーに苦しみながら,楽しみながら生み出すイメージです。

 

あくまで妄想です。ぜんぜん違うかもしれません(笑)

達人伝〜無名の進化〜

「生きてたいなら手出しはやめとけ!」と左翼を駆け上がる無名(ウーミン)。

無名は,昔から自覚的に進化させてきたものがあると言います。

 

それは,弓の達人・紀昌(きしょう)を真似た「視る力」。

動きながら動いているものをしっかり視て,かつ,視たものに瞬時に剣を直結させること。

さらに,相手の少し先の動きを視る力と,戦場を天空から視る力へ進化しようとしている。

 

荘丹と庖丁は,無意識に蓄積されてきたものが突然開花して進化を遂げましたが,無名は意識的にコツコツ地道に進化させてきたんですね。

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<秦軍を攻撃する無名漫画アクション2021/12/7発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜弓の名人・紀昌〜

久しぶりに登場しました、弓の達人・紀昌。

「第3話 紀昌」や「第95話 樹枝の矢」で登場した紀昌は,視る力を高めるとシラミがウマの大きさに見えるという達人です。

 

中島敦の短編「名人伝」の紀昌はおもしろい。

 

まず,まばたきをしない訓練を2年ほど重ね,錐で目を突かれても,火の粉が目に入っても,熟睡中もまばたきせず,とうとう,まつ毛とまつ毛の間に蜘蛛の巣ができてしまう。

次に,シラミをひたすら視る訓練を3年ほど重ねた結果,人は塔,馬は山,豚は丘,そしてシラミは馬の大きさに見えるようになった。

ものを射れば百発百中,100本の矢を速射すれば地面に落ちることなく1本の矢のようにつながり,ケンカした妻のまつ毛3本を射ても妻は気づきさえしない。

 

その後,新たな師匠につき,弓矢を用いないで射る極意「不射之射」をマスター。

以後,技を見せることは決してなかったものの,夜,雲に乗った紀昌が古の弓の名人と腕比べしている姿を見たとか,盗賊が侵入しようとしたが殺気に打たれて転落したとか,賢い渡り鳥は彼の家の上を飛ばないとか,評判は高まるばかり。

 

最終的には,「その道具どこかで見たことあるのですが,なんでしたっけ?」と弓矢の存在すら忘れ去ってしまったというシブいエピソードで締められています。達人伝が始まった当初は,紀昌のようなとんでもない凄腕でバラエティ豊かな達人を仲間として集め,ラスボス=秦をやっつけよう!というロールプレイングゲーム的な展開になるかと思いましたが,ちょっと違いました。

 

無名(ウーミン)という名が象徴的ですが,歴史に名を残さない非権力サイドの人物たち=流氓(りゅうぼう)がじつは歴史を動かしてきたというストーリーこそ,達人伝の本質であり,本流であり,本源であると理解しています。

達人伝〜麃公の助言   

無名の「戦場を天空から視る力」から,場面は華麗に秦前軍を行く麃公(ひょうこう)へ転換します。

 

「狼狽えるな!そんなことは想定の内だ!」と秦軍を叱咤する麃公。

麃公は,「わずか数年なのに 函谷関にいた頃がえらい昔のようだな」と懐かしみます。

現在,函谷関に詰める兵はおらず,門は開け放たれ,地方の女子供や老人まで墓陵造営などの土木作業に徴集されており,あれ程放置された閑職は今後存在し得ないでしょう,と王翦

 

「王の墓作りのために 女子供や年寄りまでこき使うのか!嫌な国だ!」「だが王翦 秦以外の国は早晩滅びる!おまえは あの嫌な国で生きていく他ない!」と麃公は言います。

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<秦将・麃公漫画アクション2021/12/7発売号「達人伝」より〜>

 

麃公は王翦に,その才知としぶとさで秦の軍を生き抜き,頂に立て!頂に立てば,少しはましな気色も味わえるだろう!と激励します。

 

これは,現代のビジネスパーソンにも通じるひとつの哲学。

「現状がイヤだ」と,グダグダ不満を言ってもしかたない。文句を言ってるヒマがあったら,バリバリ仕事して出世して偉くなって,自分が思うとおりに組織を変えてやればいい,という考えです。

 

史実では,後に王翦は秦軍トップとして君臨することになるので,麃公先輩の助言にしたがって順調に出世した「エリートタイプ」といえます。

一方の麃公は,「この会社はイヤだな」と見切りをつけて転職を図る「キャリアチェンジタイプ」といえるでしょう。

 

たしかに,廉頗(れんぱ)のように国を転々としてキャリアチェンジした例はありますが,はたして麃公センパイの転職はうまくいくのでしょうか?

達人伝〜まとめ  

秦軍に迫る連合軍の項燕と李牧。

そこへ,秦将・黄壁が前軍の麃公に伝言に来ます。

 

状況を聞き,麃公は王翦を湖関へ,黄壁が桓齮と楊端和を指揮して嶢関と武関へ行くよう指示。

「承知した 殿(しんがり)の総帥は深傷を負われている!函谷関は頼んだぞ!麃公将軍!」という黄壁に,「おう」と答える麃公。

 

閑職・函谷関時代からの仲間である王翦,桓齮,楊端和を全力で激励し,爽やかすぎる麃公のこの表情。覚悟を決めたようなやや不穏な印象を受けるのは,気のせいでしょうか?

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<秦将・麃公漫画アクション2021/12/7発売号「達人伝」より〜>

 

が,麃公は「征けい!函谷関の仲間達!上がってこい敵の左右両翼!俺の函谷関でぶっ潰してやる!」とノリノリでもあります。

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<秦将・麃公漫画アクション2021/12/7発売号「達人伝」より〜>

 

一方の連合軍も,荘丹,庖丁,無名の「丹の三侠」が三者三様の進化の途上にあり,絶好調。

さあ,秦軍vs連合軍の展開はどうなるのでしょうか?

次回をお楽しみに!

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<丹の三侠漫画アクション2021/12/7発売号「達人伝」より〜>

 

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王欣太先生の「蒼天航路」などの絵をリアルで観て購入できる唯一の場所=ギャラリー・クオーレ。

ファン必見の聖地でしたが、2020年末にリアル店舗は閉じ、現在はオンラインショップを展開されています!

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「達人伝」感想(第185話・五関攻め)

「達人伝」感想(第185話・五関攻め)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は,「第185話・五関攻め」です! 

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<連合軍総帥・龐煖(ほうけん)〜漫画アクション2021/11/2発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜内容の前に〜 

内容に入る前に。

扉絵の前のページに,達人伝の概要について紹介されています。

これ,シンプルでわかりやすくて,いいですね!

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<漫画アクション2021/11/2発売号「達人伝」より>

 

函谷関の場所は知っていたものの,武関の位置はわかりませんでしたが,この地図のおかげで函谷関の南方と判明。

また,龐煖の出身国・趙や項燕の出身国・楚の場所も明示されているので,地理的な意味合いや大きな視点での理解に役立つと思います。

 

以前,このブログで「地図があると助かるなあ」と書いたのですが,もしかしてゴンタ先生や出版社の方がリクエストに応えてくれたのでしょうか?ありがとうございます!!

 

ふと気づいたのが,ページ右上の「最終章」の見出し。

最終章!?

考えてみれば,2013年の連載開始以来,9年目。

コミックも30巻まで出ており,すでに第4コーナーを回ったイメージでしょうか?

 

連載が終わると思うと寂しいですが,まだまだ佳境。

今回の物語で,以前の話を忘れてしまっていた内容もあったので(汗),おさらいして今後のクライマックスに備えたいと思います。

 

最近,達人伝を知った方も,これまでの内容を読んでおくと,今後の展開がよりいっそう楽しめると思います!

 

たとえば,怪物・呂不韋の流氓から紳士への変貌ぶり。

数奇な運命をたどり,秦王・嬴政を産んだ朱姫。

静かな狂気に満ちた,白起の40万人の殺戮。

涙なしには読めない,李談の三千決死隊。

底抜けに明るく楽しく豪快な盗跖。

数々の名場面が浮かんできて,懐かしいですね。

達人伝〜五関攻め〜

さて,「第185話・五関攻め」のあらすじとレビューです。

 

連合軍総帥・龐煖が,秦の「五関攻め」の戦略を宣言。

まず,総力を結集して函谷関を突破し,ただちに軍を三分して,丹の三侠が先鋒を務める中央主力軍は潼関(どうかん)へ。

 

李牧(りぼく)率いる右軍は,湖関(こかん)を攻撃し,旧都・櫟陽(れきよう)を目指す。

項燕(こうえん)率いる左軍は,嶢関(ぎょうかん)を攻撃し,寿陵(じゅりょう)へ侵攻。

さらに,南方の要衝・武関(ぶかん)は,春申君が楚軍を率いて向かっているはず。

 

いつも沈着冷静な秦軍総帥・蒙驁(もうごう)も,「顕(あらわ)にしても こちらが対応しきれぬほどの戦略を講じ その上 万全の体制で秦に攻め入ろうというのか 龐煖!」と,あせりを禁じえません。

 

さらに,「敵兵の戦意が その熱が届いてくる!」「しかも あろうことか その意気に心震わす私がいる!」と,連合軍の士気の高まりに動揺しまくり。

もはや,戦意喪失しかかっているといっても過言ではないかもしれません。

 

「よいか!」「この戦が天下の分岐点となる!」「この一戦を 秦の野望を挫く第一戦とすべし!」と吠える龐煖。

連合軍の戦略と士気が秦を圧倒し,最高潮に達した一瞬です。

 

ところで,「秦の五関攻め」戦略は,ゴンタ先生のオリジナルでしょうか?

ざっとネットで調べた限り,それっぽい情報は見当たりませんでした。

「三関攻め」くらいでもよさそうなものですが,「五関攻め」とすることで壮大な戦略というイメージが伝わってきます。

 

ちなみに,後年,秦打倒の兵を挙げた劉邦は,守りの堅い「函谷関」を避け,「武関」から入って秦都・咸陽に一番乗りを果たします。

最終章に突入した達人伝では,その時代までは描かれないかなと思いますが,もしかしたら,もしかするかも?

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<秦軍総帥・蒙驁〜漫画アクション2021/11/2発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜一抹の不安   

「ああ?……なんだこりゃ……」「姐さん達が 遅え」と不安をおぼえる劉邦

劉邦は部下の白烽(はくほう)に指揮を任せて戦線を離脱し,噲(のちの樊噲(はんかい))も劉邦の後を追います。

連合軍の優勢は決定的で疑いようがない状況ですが,ちょっと嫌な感じがしますね。

 

ユリウス・カエサルいわく,「多くの人たちは,見たいと欲する現実しか見ていない」。

戦前の日本に,その好例があります。

 

1940年9月,勅命により内閣総理大臣直属機関として,総力戦研究所が設立。

将来,各組織のトップを嘱望される各官庁,陸海軍,民間の若手エリートが招集され,純粋な研究教育機関として日本の国力を総合的かつ精緻に分析。

 

そして,1941年2月,日米が開戦した場合のシミュレーションを行い,「日本必敗」というシナリオを導き出しました。

 

説明を聞いた東條英機陸相は青ざめながら,「諸君の研究成果はその労を多とするが,あくまで机上の演習であり,実際の戦というものは演習通りにはいかない」「日露戦争も,勝てるとは思わなかったが,戦わざるをえなかった」「この机上演習は口外してはならぬ」と発言。

 

現在,首相の器ではなかったと評価の低い東條ですが,さすがに俊英たちの叩き出した「日本必敗」という予測を重く受け止め,1941年12月の開戦へ一直線に突き進むことはありませんでした。

が,口止めするなどその成果を活用したとは到底いえず,事実,真珠湾攻撃と原爆投下以外,戦局はこのシミュレーション通りに推移しました。

 

見たくない現実を直視するのは困難。

ですが,イケイケどんどんの雰囲気の中にあっても,不都合な事実や直感を無視せず,将来に備えるのはリーダーの重要な資質ですね。

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<不安をおぼえる劉邦漫画アクション2021/11/2発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜進化の達人

「総司令官 龐煖 飛びっきりの 進化の達人だったな」と荘丹。

 

そう,龐煖は三千決死隊随一の荒くれ者でしたが,知恵を求めて楚に入り,春申君の導きで兵法に出会って大化け。

さらに,信陵君率いる秦攻めに参加し,信陵君から打倒秦の想いを託され,今の総司令官・龐煖が形成されました。

 

すっかり忘れていましたが(汗),そうでした。

龐煖は,順調なエリート街道を歩んできた軍人ではなく,不思議な人の縁をたどって総司令官に就いたのでした。

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<丹の三侠〜漫画アクション2021/11/2発売号「達人伝」より〜>

 

進化の達人,龐煖。

正直,この描かれ方は驚きでした。

 

というのも,同じく春秋戦国時代を描いた漫画「キングダム」の龐煖は,修行僧のようにひたすら武を極めようとする孤高の「武神」として描かれており,その強烈なイメージを引きずっていたためです。

 

「武神・龐煖」は魅力的ですが少々現実離れしており,「進化の達人・龐煖」はリアルな人間くさい魅力があります。

「でも実際,大人になってそんな進化する人なんているの?」と思うかもしれませんが,いるんです!

 

たとえば,三国志に登場する呉の呂蒙(りょもう)。

武に頼るばかりで学のなかった呂蒙は,周囲から「呉下の阿蒙」(呉のおバカな蒙ちゃん)と呼ばれていました。

 

ところが,主君・孫権に勧められて一念発起。

見る見るうちに学識を身につけ,噂を聞いて訪れた重臣魯粛も,呂蒙の成長ぶりに驚きます。

 

呂蒙いわく「男子三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ」。

すなわち,男子たる者,別れて三日もすれば大いに成長しているものだから,目をこすって違う目で見るべし,と。

 

呂蒙は,呉の総司令官として活躍。

侵攻してくる魏の曹操軍と互角に渡り合い,後任の陸遜とともに蜀の豪将・関羽を敗死へ追い込みます。

 

興味を持たれた方は,ゴンタ先生の名作「蒼天航路」をぜひ。

呂蒙の活躍は,コミック31巻「その350 呉下の阿蒙にあらず」にあります。

 

ちなみに,コンパクトさ重視なら文庫版(絵が小さくて迫力に欠けるのが少々難),美しいオリジナル書き下ろしの表紙絵を楽しみたいなら極厚版(重いのが少々難),オーソドックスな読みやすさを求めるならコミック版(冊数が多いのが少々難)がオススメです。

 

↑全種類持っている者のアドバイスです(笑)

達人伝〜進化する荘丹

「洛陽 上党 そして長平」「俺たちは 龐煖より前から ずっと戦場で戦ってきた」「知らぬうちに 無自覚の力が培われているかもしれない」「それを試してみよう」と荘丹。

 

「知の外の 意識の外で育まれた力 あるいは 天に養われた命の力」

これは,荘丹の祖父である荘子の考えのようです。

 

解釈するのが難しいですが,意識して努力して身につけた表層的な技ではなく,何十年も鍛錬を重ねるうちに自然と身体に染みつき,無意識に内面から発動される技といったところでしょうか。

 

荘丹は,先鋒を二分し,無名(ウーミン)と庖丁(ほうてい)に左右両軍を駆け上がるよう指示。

自身は単騎で真ん中を突き抜けると。

心配しつつ,「こういう時の荘丹は止められねえ!」と腹をくくる無名と庖丁。

 

天を仰ぎて嘘く(うそぶく)ー

 

白川静先生の「字通」で確認したところ,ここでいう「嘘く」は「泣く,嘆く」の意ではなく,「息を吐く」の意でしょう。

 

深く深く呼吸して,天と一体化する荘丹。

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<荘丹〜漫画アクション2021/11/2発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜窮まり無し  

単騎で敵陣へ突っ込む荘丹に,項燕も李牧も龐煖も驚きます。

なぜなら,項燕も李牧も,殿軍として張りついている秦軍総帥・蒙驁(もうごう)の強さが身にしみているから。

 

しかし,「味方をも惑わす 彼らの不意の力に乗っていこう」「すなわち 丹の三侠そのものが 陽動作戦の中心だ!」と龐煖は判断。

 

秦軍最後尾へ迫る荘丹に,馬首をめぐらす蒙驁。

無言の一撃を繰り出す蒙驁に,荘丹は「窮(きわ)まり無し!」

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<蒙驁vs荘丹〜漫画アクション2021/11/2発売号「達人伝」より〜>

 

この「窮まり無し」は,「蝸牛角上の争い」という荘子の故事に由来すると思われます。

 

昔,魏国は斉国と同盟を結んでいたが,斉王が裏切ったため魏王は怒って刺客を放とうとした。

すると,戴晋人(たいしんじん)という人が,「じつは,カタツムリの触覚には2つの国があり,何万人もの死者を出して戦い続けて,15日目にやっと軍を引いたのです!」というと,魏王は「ええかげんな話もたいがいにせい!」。

 

すると戴晋人は,「じゃあ,この世界の上下四方に窮まりはあると思いますか?」と問うと,魏王は「窮まりはなかろう」。

 

「窮まりのない世界で心を遊ばせる者がこの世を眺めたら,カタツムリの触覚の争いも,魏国と斉国の争いも,大差ないですよ!」と戴晋人が言うと,魏王は「うーむ,そうなんか,違いはないんか……」と呆然とした,というエピソードです。

 

説明が長くなりましたが,つまり「窮まり無し」モードの荘丹は,広大無辺の世界に悠々と心を遊ばし,蒙驁の殺気も必殺の一撃もあるかなきかで,なんということはない。

 

そして,「逍遥遊」と,まさに自在に遊ぶように蒙驁の斬撃をかわし,反撃を加えます。

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<蒙驁vs荘丹〜漫画アクション2021/11/2発売号「達人伝」より〜>

 

次元は異なりますが,最近,更科功さん著「宇宙からいかにヒトは生まれたか〜偶然と必然の138億年史」を読み,「窮まり無し」と同じようなことを感じました。

 

宇宙誕生が138億年前,地球誕生が46億年前,生命の誕生が40億年前,複雑な生物の誕生が19億年前,そして人類誕生が20万年前。

 

この間,マグマオーシャンという地球全体がグツグツ煮えたぎった状態や,スノーボールアースと呼ばれる地球全体が凍結する状態も経て,現在の我々がいるわけです。

 

ちなみに,月ができたのは,ある惑星が地球の横をかすめるようにぶっ飛んできて衝突して,その砕け散ったカケラから月ができた「ジャイアント・インパクト説」が有力だそうです。

 

地球の46億年の歴史を1年に置き換えるなら,人類誕生は午後11時37分。

私たちの一生なんて,地球の歴史から見たら,1秒にもなりません。

 

さらにいうと,地球は10億年後には太陽の膨張によって海が消滅して生物が絶滅し,さらに40億年後には太陽に飲み込まれて消滅するそうです。

 

しかし,その後も宇宙のどこかで地球のような惑星が形成され,生命が生まれ,その惑星や宇宙もいつか何らかの形で終わりを迎え,もし別の宇宙があれば,また惑星や生命が生まれては消滅していく……

 

私たちの人生は,気の遠くなるような壮大な宇宙と比べれば,漆黒の闇にきらりと一瞬だけ輝く流れ星ほどの長さもないことでしょう。まさに,時空は広大無辺で「窮まり無し」の気分。

そんな一瞬の人生で,つまらないことに怒り悲しむ自分がアホらしくなります。

これか?この感覚が「窮まり無し」ではないのか!?(笑)

 

荘子の説く「逍遥遊」は,世界が「窮まり無し」であるからこそ,時間にも場所にも何ものにもとらわれず,自由自在に生きようというスタイルと理解されます。

達人伝〜まとめ  

荘丹の遊ぶが如き剣技に斬られ,馬から崩れ落ちる蒙驁。

連合軍による五関攻めが始動し,頼みの綱の蒙驁も敗れた秦は万事休すか!?

 

が,劉邦の伏線もあり,すんなりとはいかないような気もします。

次回に乞うご期待です!

 

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「達人伝」感想(第184話・総帥の綻)

「達人伝」感想(第184話・総帥の綻)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回の「第184話・総帥の綻(ほころび)」は,ぶち上がる展開です! 

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<秦軍の立て直しを図る麃公〜漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜秦の溢れ者たち〜 

崩れかけた秦前軍の立て直しを図る秦将・麃公(ひょうこう)。

前右軍は王翦(おうせん),前左軍は桓齮(かんき)と楊端和(ようたんわ),そして前軍中央を麃公が率います。

 

「端和よ〜ぶち上がるよな〜」と話しかける桓齮。

「溢れもんと蔑まれてきた俺たちが 用無しの函谷関で吹き溜まってた俺たちが 今揃って秦の前軍を率いてる!」「こりゃ 俺たち二人の将軍職も夢じゃないぜ!」と感慨が止まりません。

 

そう,素行に問題のあった麃公,王翦,桓齮,楊端和は,何十年も敵が攻めてきたことのない函谷関に配属された閑職,いわゆる窓際族でした。

手柄を上げる機会すら与えられず,一生このまま。

それが,あれよあれよという間に引き立てられ,今では最前線で共に戦う心強い仲間。

 

三国志曹操は,「治世の能臣,乱世の奸雄」と評されました。

麃公たちも,秦が他国に攻め込まれる非常時にこそ,活躍するタイプだったのかもしれません。

 

さあ,このまま函谷関へ撤退しながら攻撃の機を捉え,連合軍に一矢報いるのでしょうか?

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<秦将・麃公〜漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜愚息・蒙武〜

秦軍後軍を整えながら撤退する秦軍総帥・蒙驁(もうごう)。

 

殿(しんがり)まで下がってきたわが子・蒙武に,「この戦はこの子の手に余る!」との思いはおくびにも出さず,ただちに都へ戻り,武関の防備を進言するよう命じます。

蒙武は,「え!?…副官である私が戦場を離れ伝令とは…」と抵抗。

 

これは,前回,「軍を放り出して援軍の要請など行っていたのか!この馬鹿息子が!」と麃公に怒られたのが効いているかもしれません(笑)

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しかし,蒙驁は「伝令ではない!」「戦況を知るおまえが主となり 都で対応策を講じるのだ!」と一喝。

 

元外交官の作家・佐藤優氏は,「能力なし×意欲ありの人材が,組織にとって一番タチが悪い」と言います。

 

「能力も意欲もある人材」は最高,「能力も意欲もない人材」は問題外として,「能力あり,意欲なしの人材」より「能力なし,意欲ありの人材」の方がひどいというのは,ちょっと意外ではないでしょうか?

 

私も,「能力なし,意欲ありの人材」は,時間をかけて経験を積めば優秀な人材に育つのではないかと思いますが,外交や戦場というひとつの失敗が組織の致命傷になりかねない緊張感をはらんだ場面は例外。

やはり,「能力なし,意欲ありの人材」は,下手な功名心にはやったりして判断を誤るリスクが高く,組織には極めて危い存在なのかもしれません。

 

「能力なし,意欲ありの人材」,残念ながらそれがまさに蒙武。

 

蒙驁おとうちゃんは,力不足の蒙武は危なっかしくてこの戦場に置いておけない,自分は親バカだから蒙武をかばって戦局を誤ることになりかねないので,早々に離脱させようとしたのです。

達人伝〜総帥の綻   

が,しかし!

楚将・項燕(こうえん)が,猛然と蒙驁に襲いかかります。

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<蒙驁に襲いかかる項燕〜漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

 

つい先ほど蒙驁を「総帥」と呼んでいたのに,思わず「父上ーー」と叫ぶ蒙武。

とっさの場面で争えないのが親子の情。

 

項燕の一撃をかわしながら,すかさず反撃する蒙驁。

蒙武も項燕に斬りかかるが,逆にひたいを斬りあげられる。

危ない!と狼狽する蒙驁。

その蒙驁のわずかな隙を,綻を衝き,渾身の一撃を降りおろす項燕。

そして,無念!と観念した表情の蒙驁。

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<項燕vs蒙驁〜漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

 

が,すんでのところで秦将・黄壁(こうへき)が割って入り,危機を逃れる蒙驁。

同時に,黄壁への一撃で剣が折れ,蒙驁と黄壁の反撃により項燕は後退を余儀なくされます。

達人伝〜達人の攻防〜   

いや〜,しびれる展開で,絵から読み取れる攻防の駆け引きもじつに味わい深い。

 

まず,「蒙驁の後ろから襲う項燕」「蒙驁」「蒙武へ注意喚起する蒙武」の3人のタテ構図が,めちゃくちゃバシッと決まっています(↑上の絵)。

個人的に,こういう一瞬を切り取った写真のような,戦場全体の音が消え去った中で「父上ーー」という声だけ響いてくるようなシーンはツボです。

 

からの,剣を斬りおろす項燕と斬りあげる蒙驁,タテ構図の2人のコントラスト。

 

さらに次ページを見ると,蒙驁は右手で馬の顔をグイッと押し,その反作用で馬のお尻を項燕の馬にぶつけることで,項燕の斬撃を逸らしています。

現代でいえば,車でスーパードリフトをかましながらの攻撃といったところで,おそるべき蒙驁のドラテク

 

しかし,項燕も負けていない。

必死に斬りかかる蒙武には視線もくれず,むしろ「綻(ほころび)!」と捉えてキタキターッとばかりに,蒙武の動きを止める程度に浅く斬りあげます。

 

そう,項燕の狙いはあくまで蒙驁。

蒙武の救出に入ることを見越して蒙驁からは一瞬も視線を外さず,蒙武に対しては浅く斬りあげ,馬の頭をかちあげて蒙驁の斬撃を逸らし,しかる後に上方に溜まったパワーを一気に解き放つように渾身の一撃を振りおろす。

 

もう,これ以上ないというくらいの完璧な流れ。

が,予想外の黄壁の出現によって妨げられるという。

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<項燕vs蒙驁・黄壁〜漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

 

見開きページのこの絵(上の絵↑),後ろ姿だと誰だかわからないところ,左上に黄壁の顔を載せることで明示し,さらに蒙驁は早くも項燕への斬撃を始動させています。

ひたいを斬りあげられ,白目状態でのけぞったままの蒙武くんとは,えらいちがい(笑)

 

なお,ここで解説した絵を全部載せたいのは山々ですが,ちょっと著作権上まずかろうと思われるので,控えさせていただく次第です。

コミック31巻が出た際はさらっと読み流さず,じっくり味わっていただくとより楽しめるのかな,と思います。

そして,「こんな仕掛けもある!」「これはこういうことでは?」など共有いただけたら幸いです!

達人伝〜項燕の剣〜 

余談ですが,しばしば折れる項燕の剣について。

 

まったく次元は異なりますが,中学の部活でバドミントンを始めた頃,最初の半年間ほどは毎月,へたすると毎週のようにガット(ストリングス)が切れました。

力任せに打つだけのへたくそでスイートスポットに当たらず,はしっこのヘンなところばかりよく切れたのです(笑)

 

少し上達してからは,張り替えの頻度は2,3ヶ月に1回程度に減りましたが,テンション(ガットの張りの強さ)が高めだと切れやすく,低めだと切れにくいことは確か。

トップアスリートに憧れ,バリバリ高いテンションで張った時期もありますが,打球の衝撃が半端なく,肩が痛くなったのでほどなくやめました(笑)

 

剣に関しては,鉄の種類,配合,鍛え方によって柔らかい剣と硬い剣があり,中心部分は柔らかい鉄,表面部分は硬い鉄を使うと折れにくい剣ができるそうですが,基本的に硬い剣じゃないと戦場では使い物にならないでしょう。

 

項燕の場合,麃公が「膂力の化け物」と評したこともあり,剛腕の武将にとって剣は消耗品だったのだろうと想像します。

達人伝〜秦都攻撃宣言〜   

後退して劉邦率いる本隊と合流する項燕。

蒙驁は黄壁に礼を言い,まだ茫然自失状態の蒙武に都へ向かうよう命じます。

 

「ぐう〜もうちょいだったのに〜」と悔しがる項燕。

「いつかぶっ倒しゃいいんだ」という劉邦に,連合軍総帥・龐煖(ほうけん)は「いつかではだめだ!この戦で倒さねばならない」と言います。

 

続けて,「これより秦都攻撃態勢に入る!」「第一攻撃目標は 函谷関以下の五関攻略!」と宣言。

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<秦都攻撃を宣言する龐煖漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

 

そもそもこの戦は,「魏に侵攻した秦」vs「秦を撃退し,魏を救うため結成された連合軍」との戦と思っていましたが,ところがどっこい。

龐煖は秦都へ攻め入ることを目指し,そのために五関攻略という壮大な戦略を携えてこの戦に臨んでいたことが判明しました。

 

激しく動揺する蒙驁。

さらに龐煖は,「長平45万の無念と 中原の憤怒を秦の都にたたきつけるべし!」と檄を飛ばします。

 

長平45万の無念。

そう,秦将・白起(はくき)は趙を攻めた際,投降してきた45万人もの兵を生き埋めにして殺したのでした。

 

45万人といえば,100万人規模の政令指定都市の約半数。

趙の正確な人口や総兵力はわかりませんが,一説によれば趙は国の9割の兵力を失ったとのこと。

 

45万人の兵士には,それぞれ親,妻,恋人,子どもがいた。

45万人の子ども,夫,恋人,父を亡くした家族の悲しみ,怒り,恨みは,筆舌に尽くし難いものがあったことでしょう。

 

長平の無念と,秦に抑圧・侵攻されてきた憤怒を,たたきつける機会がついに来たのです!

達人伝〜微かな違和感  

連合軍が気勢を上げる中で,ひとり違和感を覚える劉邦

この違和感の正体はなんでしょう?

 

思い当たる節としては,盗跖ねえさんが秦の異民族軍にやられたこと,あるいは,いささか龐煖が急いでいる印象を受けることくらいでしょうか?

 

さあ,この伏線がどのように効いてくるのでしょう?

次回,第185話が楽しみです!

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<微かな違和感を覚える劉邦漫画アクション2021/10/5発売号「達人伝」より〜>

 

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「達人伝」感想(第183話・大なる戦功を求め)

「達人伝」感想(第183話・大なる戦功を求め)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は,「第183話・大なる戦功を求め」です! 

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<秦軍総帥・蒙驁〜漫画アクション2021/9/21発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜進撃の連合軍〜 

撤退する秦軍と,追撃する連合軍。

全軍で追撃してくるかと思いきや,楚軍が西進することに驚く秦軍総帥・蒙驁(もうごう)。

そう,連合軍は秦軍を撃退するのみならず,秦への侵攻を目論んでいるのでした。

詳しく知りたい方は,前回の記事をどうぞ!

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まずは本隊の立て直しを図る蒙驁に迫る趙将・李牧(りぼく)の矢。

しかし,蒙驁は名手・李牧の矢を苦もなくかわします。

負傷しまくっていても,さすが蒙驁さん。

 

さて,矢の速度はどれくらいなのでしょう?

ざっと調べたところ,和弓やアーチェリーは200km程度なので,古代中国の弓矢も同程度と推測されます。

 

むかし,車で180km出したことがありますが,フワフワと地に足がつかない感覚が恐ろしく,10秒くらいで80kmに落としました(笑)

また,テニスの高速サーブも200kmくらい。

人類トップレベルの反射神経と運動神経を誇るアスリートが,しばしばノータッチエースを決められるのを見ると,200kmというのはとんでもない速さであることがわかります。

 

もう李牧が射込んでこないと見切った蒙驁は,全速で麃公についていくよう秦軍へ指示し,自身は単騎で離れます。

 

追撃する李牧に合流してきた楚将・項燕(こうえん)。

「武人・蒙驁は桁はずれだが 総帥・蒙驁には綻(ほころび)がある!」「それを衝く!」と,項燕は軍を李牧に預けます。

 

つまり,項燕は蒙驁を追い,李牧は引き続き秦軍本隊を追撃。

さて,蒙驁は何の目的で単騎で離れたのでしょう?

自身が囮(おとり)となって,連合軍の猛追を分散して弱める意図でしょうか?

 

項燕は項燕で,「総帥・蒙驁の綻を衝く!」と勝算があるようです。

「総帥・蒙驁の綻」といえば,この後も登場しますが,愚息・蒙武のことでしょうか?

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<秦軍を追撃する楚将・項燕〜漫画アクション2021/9/21発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜麃公激怒①〜

バラバラに遁走する秦軍を嘆く麃公(ひょうこう)と楊端和(ようたんわ)。

「この腰抜けの秦前軍どもーーっ」「ただちに元の陣列に戻れい!」と麃公はブチ切れます。

ふだん,自由でユルユルな人が怒ったときほど,怖いものはありません(笑)

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<烈火の如く怒る秦将・麃公〜漫画アクション2021/9/21発売号「達人伝」より〜>

 

と,そこに襲いかかる丹の三侠。

庖丁(ほうてい)と荘丹(そうたん)が麃公に,無名(ウーミン)が楊端和に斬りかかりますが,麃公は振り切って本隊合流を優先。

 

「この戦 おのれの意のために戦うのではない!」「より大なる戦功を求めるだ!」「秦に置いていく仲間たちのために!」

 

私利,私欲,私怨を捨て去り,仲間のために戦う麃公。

こうなった人間は,強い。

付け入る隙がなく,ときに超人的な力を発揮します。

項燕が危惧していたとおり,戦局を変えうるかもしれません。

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<大なる戦功を求める麃公〜漫画アクション2021/9/21発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜麃公激怒②   

どやしつけて鼓舞するとともに,隊の先頭に数十騎ずつ配置することで,秦軍本隊の立て直しを図る麃公。

 

「どへたれ共があーー」「その無様な逃げ腰をたたっ斬ってやろうかあーーっ」

「恐るな」「隊列を整えい」「さもなくば 刎(くびは)ねるぞ」

「肝玉を据えろ」「戦から逃れるな」「最強の軍団たる誇りを取り戻せ」

 

魂の叱咤激励。

ある意味で,負け戦や負けっぷりこそ,将の力量が問われます。

 

織田信長と浅倉義景が戦った金ヶ崎の戦い

「金ヶ崎崩れ」とも呼ばれる信長の撤退戦ですが,全滅やむなしの困難な殿軍を見事に務めて乗り切ったことで,秀吉はその力量を信長に認められ,信頼を勝ち得ています。

 

あるいは,三方ヶ原の戦いで完膚なきまで武田信玄に敗れた徳川家康

恐怖でウンコをもらしながら,わずかな兵とともに命からがら城へ逃げ込みますが,すべての城門を開いて篝火を焚き,武田軍を待ち受けます。

いわゆる,空城の計。

ここで,恐怖に駆られてガチガチに閉じこもろうとしたら,追撃してきた武田軍にあっさり攻め落とされていたかもしれません。

 

たとえ負けるとしても,再起不能となる敗戦は絶対に避ける。

被害を最小限に抑える。ただでは負けない。

あわよくば,隙を見て逆襲を仕掛ける。

 

言葉でいうのは簡単ですが,修羅場でオタオタせず腰を据えて対応するのは,本当に困難なもの。

麃公はさすが。ちょっと,顔が怖いですが(笑)

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<秦軍を叱咤激励する麃公〜漫画アクション2021/9/21発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜馬鹿息子・蒙武①〜   

麃公,最高かよ!と思っていたら,ここに「間の悪い男」が登場します。

秦軍総帥・蒙驁の息子・蒙武。

 

援軍を要請したが拒否されたと麃公に伝えると,「おまえ 前軍を放り出して そんなもんを請いに行っとったのか!?」

「え?…」と絶句する蒙武に,「邪魔になる!」「一部隊でいいから隅っこで率いてろ 馬鹿息子!」と一喝。

 

蒙武くん,ハッキリ言われてしまいました(笑)

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<蒙武を叱り飛ばす麃公〜漫画アクション2021/9/21発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜馬鹿息子・蒙武②  

麃公に丹の三侠が襲いかかります。

「功にならん雑魚どもめがぁーっ」と麃公。

なるほど,丹の三侠はほぼ無名なので,麃公が討ち取っても武功にならないんですね(笑)

 

そこへ,王翦と桓齮が合流。

丹の三侠の対応を王翦たちに任せ,本隊の立て直しに向かう麃公。

さあ,王翦・桓齮vs丹の三侠(荘丹・無名・庖丁)です。

 

と,ここへまた,間の悪い蒙武くんが,よかれと思って割って入ります。

しかし,斬撃はあっさりかわされ,馬で蹴られてしばし宙を飛びます。

 

「邪魔だ どけーっ」と,一喝する桓齮。

「総帥の息子だぞ」と,たしなめる王翦

 

激戦の最中,王翦の冷静な忖度は最高です!

桓齮は「え!?」と驚いているので,蒙武のことを知らなかったんですね〜残念!(笑)

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<桓齮をたしなめる王翦漫画アクション2021/9/21発売号「達人伝」より〜>

 

空中を浮遊後,どべっと馬に着地(着馬?)したところで,蒙武の見せ場は終わります。

いや,3枚目というか何というか,味方の足を引っ張りまくる蒙武の存在感は抜群!

 

どんなにデキが悪かろうと,いや,デキが悪いほど,子供はかわいいもの。

経営の神様のようにいわれている松下幸之助は,はじめ世襲を否定していたものの,晩年はどうやって自分の子供に後を継がせようか,親心丸出しで腐心したそうです。

 

弱点があれば,組織としてカバーしようと動かざるをえないもの。

蒙武の存在は,今後もキーパーソンとして見逃せません!

達人伝〜5人馬交錯  

蒙武はさておき,王翦・桓齮と荘丹・無名・庖丁の5人が交戦。

李牧の矢が王翦に迫り,秦軍vs連合軍戦はいよいよ白熱。

5人馬が交錯するこの絵,凄いですね!

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<王翦,桓齮と交戦する丹の三侠〜漫画アクション2021/9/21発売号「達人伝」より〜>

 

「戦局を完全に掌握するため 本陣に帰することを命じます!」と李牧が丹の三侠に命じるところで,第183話は終わります。

 

状況を整理すると,秦軍本隊は函谷関を目指して撤退しつつ,蒙驁が単騎で離脱。

別働隊だった麃公と楊端和は,本隊に合流しつつ立て直し。

王翦,桓齮は,追撃してくる丹の三侠に対応。

 

連合軍は,楚軍は別働隊として武関(函谷関の西?)を目指し,項燕は蒙驁を追跡。

丹の三侠は,王翦,桓齮を追撃。

劉邦は中央,龐煖は右翼,廉頗は左翼で,秦軍本隊を追撃している状況でしょうか。

 

各方面の状況が刻々と変化しており,簡単な地図や位置の解説がほしいかも?

さあ,痛撃を与えようとする連合軍と,立て直しを図る秦軍のせめぎあいが佳境。

次回,第184話が楽しみです!

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<撤収を命じる趙将・李牧〜漫画アクション2021/9/21発売号「達人伝」より〜>

 

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「達人伝」感想(第182話・武人の結界)

「達人伝」感想(第182話・武人の結界)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回の「第182話・武人の結界」は,激アツです! 

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<10代目盗跖〜漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜盗跖の最期〜 

いきなり,10代目盗跖が死を迎えます。

大好きだった8代目盗跖の兄,愛し合った9代目盗跖の修(しゅう)を思い出しながら。

 

盗跖の首飾りの「跖」の字の玉が剣に切られ,飛び散ります。

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<盗跖の最期〜漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

 

いきなりなんのこっちゃ,前回までの流れを知りたいという方は,こちらをどうぞ。

ざっくりいうと,秦の異民族で構成された屈強な軍団が,不意に連合軍に襲いかかったという流れです。

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場面は変わり,盗跖の本拠地(ねぐら)。

 

舟の上で,大人たちと剣の稽古をする子ども。

やんちゃできかん気が強そうな顔は,8代目盗跖や劉邦にそっくり。

子どもの名は幹(かん),10代目盗跖の息子のようです。

 

「魚みたいに俊敏に!」「そんなんじゃ 謀幹さんは11代目と認めないよ!」と叱咤される幹。

 

「後は 頼んだよ 11代目」

母親の声が幹の頭にこだまし,同時にねぐらの岩の一部がドドドと崩落します。

崩落に動揺する大人たち4人を,舟から突き落とす幹。

 

さっき,おっ母さんの声がした。

「稽古の途中で よそ見してんじゃねえ!」

涙ぐみながら,幹は大人たちに叫びます。

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<10代目盗跖の息子・幹(かん)〜漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜引き継がれる流氓の魂〜

冒頭から鳥肌が立ち,引き込まれました。

いろいろ考えることが多くて何度も読み返し,涙がこぼれそうになりました。

 

盗跖のネックレスの玉がちぎれるのは,兄の8代目盗跖が白起と凄まじい決闘を繰り広げた際と同じ演出ですね。

あのときは,8代目盗跖の血が額に付き,ちぎれた玉が口に入った修が,9代目盗跖となる決意を固めたのでした。(単行本14巻参照)

 

玉は,代々引き継がれる「盗跖」の魂の象徴。

 

今回,11代目に玉が渡ることはありませんでしたが,「強くなれ!流氓の魂を引き継ぐ,立派な11代目盗跖になれ!」という母の声は,たしかに届いたことでしょう。

 

謀幹さん。

久しぶりに,その名を聞きました。

 

8代目盗跖の時代からのお目付役で,しばらくお見かけしていませんでしたが,いまも健在なんですね。

もしかして,11代目盗跖の「幹」という名は,謀幹さんから字をもらったのでしょうか?

 

秦の強力な異民族軍団に遭遇して突然亡くなった盗跖ですが,王欣太先生はその死を切なく,美しく描いてくれて,救われました。

 

なんせ,秦軍は首ひとつで金5千斤ゲット,ぐわっはっはーっとか言うてるので,盗跖の血まみれの生首がゴロリと出てきたり,秦王嬴政あたりが「女の首?賞金などやれるか!」と蹴飛ばしたりしないかと,ひそかに心配していました(笑)

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<引き揚げる秦の異民族軍団〜漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

 

決して,ただでは死なない。

身は滅んでも,流氓の魂は受け継がれていく。

忘れない限り,死者は生者のなかで生き続ける。

 

冒頭のこの8ページは,達人伝の「肝」が凝縮された名場面でした。

 

しかし,8代目は白起,9代目は秦王嬴政,10代目は異民族軍団によって殺されており,盗跖一族にとって,秦は本当に不倶戴天の仇敵ですね。

達人伝〜廉頗vs蒙驁〜

場面は変わり,秦軍を追撃する連合軍。

本隊を立て直そうとする秦軍総帥・蒙驁(もうごう),麃公(ひょうこう),楊端和(ようたんわ)。

それを阻止しようとする楚将・項燕(こうえん)。

 

と,そこに秦軍を蹴散らして「おおっ そこか!白馬のじいさん!」と登場した廉頗(れんぱ)。

「そう宣う(のたまう)貴公も 白馬の老将!」と応じる蒙驁。

ここに,歴戦の英雄2人が激突!

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<廉頗vs蒙驁〜漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

 

「うおおっ なんだこれは!?」「両者の切っ先から放たれる気か!」「これは…何ぴとも寄せつけぬ ふたつの武による結界!」と驚愕する項燕。

 

まさに,今回のタイトルの「武人の結界」。

廉頗と蒙驁は文字どおり火花を散らし,まばゆいばかりの圧倒的な熱量と光芒を放ち,何人も寄せつけない至高の戦いを繰り広げます。

 

電子書籍で1ページずつしか読めない方は,この見開き2ページの迫力は伝わりにくいでしょうね。漫画アクションの紙版か,コミック化された際はぜひ電子版でなく紙版でご賞味ください(笑)

達人伝〜李牧参戦   

「すごい…だけど」「それは 戰ではない!」「戦は ふたりの武人のものではない!」と,廉頗と蒙驁に割って入る李牧(りぼく)。

 

李牧の矢は,蒙驁の右腕に命中。

均衡が崩れ,撤収する蒙驁。

 

「廉頗将軍!勝利は秦都にのみあります!」「悪しからず了承願います!」という李牧。

「うむ?…」「おお そりゃ そうだ」と受け入れた廉頗は,数々の傷口から一斉に血を噴き出して落馬しそうになり,孟梁さんがおわーっと受け止めます。

 

一方の蒙驁も,廉頗に斬りつけられた傷が血を噴き出し,李牧に射られた矢を引き抜き,「私としたことが……廉頗に応じるべきではなかった!」と反省します。

達人伝〜センスとスキル〜   

何をもって勝利とするか?

 

私はセンスとスキルの話が大好きなのですが,李牧は何をもって勝利とするか,戦場の渦中にあっても冷静に全体を見渡す「センス」が秀でています。

一方の廉頗は,個と個の対決,タイマンではまず負けないという戦闘の「スキル」がずば抜けています。

 

センスは全体・綜合,スキルは部分・分割。

 

全体と部分は密接に関連しますが,勝負事において,全体は部分の総和でありません。

多くの部分で勝ったからといって,全体で勝つとは限りません。逆に,多くの部分で負けていても,全体で勝つこともあります。

すなわち,戦闘で負けて戦争に勝つ,あるいは,戦闘で勝って戦争に負ける。

 

その好例が,達人伝より少し後の時代になりますが,項羽と劉邦の繰り広げた楚漢戦争。

項羽からすれば,99勝して最後に1敗したイメージ。

項羽の戦闘スキルは無双状態で,自身が参加するあらゆる戦闘で勝ちまくったが,最後の戦争で負けた。

 

劉邦は,負けても負けても死なない限り,本当の負けではない。

どれだけみじめに逃げまくろうと,生き残ることが最優先。

 

項羽との直接対決で勝てないのはしかたない,それはなるべく避ける,それ以外の局面で勝てばよいという,しぶとくも図太い全体戦略=センスが優れていたのでしょう。

 

それは,劉邦自身というより,張良,陳平,韓信など部下のセンスが優秀だったのかもしれませんが,彼らのアドバイスを聞き,「項羽は強い,おいらは弱い。しかたないよな」と受け入れた劉邦のセンス,度量はやっぱりエラい。

 

劉邦自身は武術の腕も学もなく,たいしたスキルがなかった。

からっぽの器のようなもので,少しでもスキルやセンスがある人材はどんどん来てくれという構えだったので,有象無象も含めて優秀な人材が集まった。

 

劉邦の仕事は,「全体」をまとめあげること,すなわち「綜合」だった。

 

一方,項羽の場合,1対1で勝てる人間は当時いなかったんじゃないかというほど戦闘スキルが異常に高く,しかも名家の出身のため,庶民出身の劉邦などと比べると教養も備えていた。文武両道の優等生ってやつですね。

 

他人の評価基準が自分であり,自分よりスキルが劣るような人材は評価しなかった。

そのため人材が集まりにくく,せっかく優秀な人材がセンスのある貴重なアドバイスをくれても,なまじ自分のスキルに自信があるため,素直に聞き入れることができなかった。

 

つまり,項羽はスキルなど「分割」された「部分」の最適化に終始し,「全体」の「綜合」を行うことができなかった。

 

達人伝に戻ると,廉頗や蒙驁レベルの名将になれば,センスもスキルも高いレベルで備えていたでしょうが,項羽よろしく,廉頗も蒙驁も自身の戦闘スキルに絶対的な自信があった。

 

それは,武人の血,戦人の本能とでも呼ぶべきもので,ついつい戦局全体の流れを忘れ,引き合い,戦ってしまったということでしょう。

 

こういう人たち,個人的には嫌いじゃありません。むしろ好き(笑)

達人伝〜次代を生きる雄  

連合軍中央で指揮を執る劉邦。 

 

総司令の龐煖(ほうけん)も,「よく通る 実にいい声だ」「今しばらくは 総司令の役を預けて 気持ちよく従って戦おう!」と納得の様子。

劉邦は,右手に龐煖,左手に丹の三侠を向かわせて,秦軍を追撃します。

 

楚の春申君も「戦国四君 最後のひとりとして 秦の天下を阻む責務はわが一身にある!そう奮い立たせてきたが」「ここに 次代を生きる雄がいる!」と全幅の期待を寄せます。

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<赤き龍・劉邦漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より〜>

 

「赤き龍!次代を照らす天下の光か!」という春申君のセリフで,第182話は締めくくられます。

 

さあ,次の183話は,どのような展開になるのでしょう?

次号はお休みとのことですが,8月26日(木)にコミック30巻が発売予定。

こちらもお楽しみに!

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 <漫画アクション2021/8/17発売号「達人伝」より>

 

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「達人伝」感想(第181話・手みやげ)

「達人伝」感想(第181話・手みやげ)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は,「第181話・手みやげ」です! 

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<劉邦漫画アクション2021/8/3発売号「達人伝」より〜>

 

【目次】

達人伝〜追撃の劉邦  

秦軍を追撃する劉邦

 

ついに,榮陽城へ撤退しようとする秦軍に追いつき,「諦めろ諦めろ!」「おめえらには逃げ場なんかねえんだぜーっ」と指揮を振るいます。

 

 李牧も「まるで総大将…」,廉頗も「邦と言ったか あの若者…」「どえらい将器を持っとるな」とべた褒め。

 

思いきって劉邦を中央軍に据えた龐煖の読みが,ズバリ的中。

 

総大将は,こうでなくちゃいけない。

劉邦は気持ちよいくらい豪快で,痛快で,明るくて,「いよっ,さすが大将!」という雰囲気がいいですね。

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<秦軍を追撃する劉邦漫画アクション2021/8/3発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜春申君vs麃公①〜  

秦軍を追撃する楚軍の横から,秦将・麃公が登場。

麃公さんは死んだと思われていましたが,前回,奇跡の生還を果たしたのでした。

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麃公が楚軍の先頭を襲おうとすると,楚国宰相・春申君がすかさず迎撃態勢。

そして,「ほれ!」「取りに来い!」「天下随一の首がここにあるぞ!」と麃公を挑発します。

 

やりますな,春申君。

春申君は,弁舌には自信があっても,武術はからきしのはず。

じつに肝が太い!

 

そして,挑発に乗ったフリをした麃公は,軍に被害を及ぼさないため楊端和に軍指揮を任せ,「運が良ければ あの首が置きみやげだ!」と単騎で楚軍に突入。

 

吹き出しのセリフと別に書かれている思考が,じつにおもしろい。

春申君と麃公,歴史に名を残す2人の読み合い,掛け合いが丁々発止の火花を散らし,じつにいいですね。

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<麃公を挑発する春申君〜漫画アクション2021/8/3発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜春申君vs麃公②〜  

騎馬を降り,楚軍の間を駆け抜けて春申君に襲いかかる麃公。

 

なるほど,腕におぼえのある麃公といえど,ふつうに突っ込むのは危険。

それで,あえて馬から降りて敵軍の視界から姿を消し,相対する敵の数を絞りこんだのですね。 f:id:a-kikutti:20210806061632j:plain

<秦将・麃公〜漫画アクション2021/8/3発売号「達人伝」より〜>

 

通常,歩兵vs騎兵は,歩兵が圧倒的に不利。

 

走る馬を間近で見たことがある人ならわかるでしょうが,人よりずっと質量の大きい馬が勢いをつけて突っ込んでくると,めちゃくちゃ怖い。踏み潰されるのがオチ。

あんなものは,馬防柵や長い戟がないと,とても対抗できません。

 

常識ではありえない戦法ですが,ありえないがゆえに麃公。

 

そして,肉薄する麃公に,春申君は「決して取らせはしない!」「我は 戦国四君 最後の一君なるぞ!」と気迫で迎え撃ちます。 

 

いや,この胆力はさすが。

 

そうなんですよね,戦国四君のうち,孟嘗君はだいぶ前に亡くなっており,続いて平原君,そして信陵君も先の秦との大戦後に亡くなり,春申君は最後の一君。

 

三君の思いを受け継ぐ自分が,こんなところでくたばるわけにはいかない!という矜持と気炎が,首の皮一枚のところで命を繋ぎます。

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<麃公を迎え撃つ春申君〜漫画アクション2021/8/3発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜楚の国辱  

危機を脱した春申君は,「信陵君の戦いを受け継ぐ者が求める勝利は 最低でも秦国内への侵攻でなければならず」「わが楚の 百世の国辱を雪ぐ報復の戦いも そこから始まる」と宣言します。

 

楚の国辱とは?

 

かつて,楚王は秦へ行ったきり幽閉されて殺されたり,秦の王女を娶らされたり,広大な領土を攻め取られたり,何十万人もの人々を殺されたり,その結果遷都まで余儀なくされたり,歴代にわたって屈辱を受け続けています。

 

有名な詩人である楚の屈原が入水自殺したのも,秦に侵食され続ける楚の将来を悲観してといわれます。

 

とにかくもう,楚は秦のせいで踏んだり蹴ったり。

 

さらに,楚人というのは,中華民族の中でも熱く激しい気質を持つ人たちで,「大楚(タアチュウ)!」と叫んで片肌を脱ぐような習慣は,他の地方では見られないそうです。

 

だから,楚は秦が大嫌い。

文字どおり,恨み骨髄に徹している。

 

趙も,長平の戦いで20万人の捕虜が生き埋めにされたり,さんざんな目にあって秦に深い恨みを抱いているでしょうが,楚人はもって生まれた性格が激しい。

 

私見ですが,楚は大阪〜関西に近いイメージ。

大阪人〜関西人は,熱く激しい気質の人が多く,義理人情に富み,東京を敵視しますよね(笑)

私はそんな大阪,関西が好きですが。

 

春申君はスマートな紳士なので粛々と宣言していますが,楚軍全体の雰囲気は「秦に対する今までの恨み,忘れてへんからな!絶対に許さへんからな!」と,熱い思いが煮えたぎっていたのではないでしょうか?

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<秦への侵攻を宣言する春申君〜漫画アクション2021/8/3発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜金5千斤〜  

援軍を求める蒙武に対し,「あれほど弱い軍はいっそ皆殺しにでもなればよい」と言い放つ秦王・嬴政(えいせい)。

 

続いて,「あれは蒙驁の敗戦だ」「責任を問い 軍総帥を罷免する」と,軍のすべてを作り直すため直ちに都へ戻るといいます。

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<秦王・嬴政〜漫画アクション2021/8/3発売号「達人伝」より〜>

 

目下,秦軍で蒙驁ほど優秀な将軍はいなさそうですが,秦王は自信あり。 

その根拠のひとつが,異民族の直属軍。

 

口々に「金5千斤」といいながら,直属軍が帰還してきます。

首1つにつき,金5千斤の報酬がもらえると。

 

ちょっと待ってください。

 

1斤=600gとすると,5千斤は3,000kg=3トン!?

現在の金の価格(1g=約7,000円)を適用させると、21億円!

現代中国だと1斤=500gのようですが,にしても17.5億円!

 

ええーーーっ!?

宝くじどころの金額じゃないですね!!

 

桁違いすぎて,ちょっと自信ありません。

たぶん,1斤の重量や金の値打ちが違うのでしょうが,とにかく,とんでもない大金ということです(笑)

 

そりゃ,直属軍のモチベーションは爆上がりでしょう。

  

余談ですが,ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは,年収約800万円までは収入が増えれば増えるほど,幸福度は比例して大きくなることを科学的に明らかにしました。

 

ただし,年収800万円付近を境に、それ以上収入が増えても幸福度はほぼ変わらないそうです。

 

現代人と古代人では金銭に対する感覚,価値観は異なるでしょうが,仮に21億円を得たら,どれほど幸福度が上昇するでしょうか?

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<首を持ち帰る秦の直属軍〜漫画アクション2021/8/3発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜盗跖軍団に迫る危機〜  

遡ることおよそ3刻(45分前)。

蒙武率いる秦軍を追撃する盗跖軍団に,異変発生。

 

 先頭を切って追撃する魁(かい)兄貴の首が,突然刎ねられます。

 首領の盗跖ねえさんにも,一陣の狂風が襲いかかる。

 

ちょっと待ってください。

 

金5千斤のページの絵,秦の直属軍が持っている首が入っているとおぼしき血が滴っている布の袋,これって盗跖ねえさんの羽織っている服じゃないですか?

 

今回の第181話のタイトル「手みやげ」は,麃公さんが春申君の首を手みやげにしようとして失敗した話と思っていましたが,まさか秦直属軍の手みやげが盗跖の首ということ?

 

いやいやいや,勘弁してください。

せっかく,連合軍全体がいい感じで追撃しているのに,われらが盗跖ねえさんが殺られちゃうのでしょうか?

 

8代目は秦将・白起に,9代目は秦王・嬴政に殺されました。

10代目の盗跖ねえさんまで秦軍に殺られるのは,切なすぎます……

 

王欣太先生,なにとぞ命だけは助けていただきますよう,伏してお願い申し上げます。

 

次回,第182話に乞うご期待です!

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<危機が迫る盗跖〜漫画アクション2021/8/3発売号「達人伝」より〜>

 

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「達人伝」感想(第180話・榮陽の陣)

「達人伝」感想(第180話・榮陽の陣)

蒼天航路」の王欣太(キングゴンタ)先生が連載している「達人伝」のあらすじと感想を紹介します。

今回は,「第180話・榮陽の陣」です! 

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<楚の春申君〜漫画アクション2021/7/6発売号「達人伝」より〜>

【目次】

達人伝〜挑発する廉頗〜  

「んむ?どうした小僧ども 来ないのか?」「あきらめるのか この首を」と挑発する連合軍・廉頗。

 

怒りつつ、撤収を了解している秦将・王翦

黄壁、王翦、桓齮の秦軍は、洛陽方面へ迂回しながら榮陽まで撤収するようです。

 

廉頗と李牧は、荘丹について会話をのんびり交わしています。

噂をすると、ヨロヨロになった荘丹が殿軍まで下がってきました。

 

そう、前回、荘丹は秘剣・絶界で秦軍本営を攻撃し、鮮やかに崩したものの、そこで気を使い果たしたようです。

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「開花したのにもうしぼんだか〜〜」という廉頗のセリフが、ユーモラスでいいですね。

 

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<秦軍を挑発する廉頗〜漫画アクション2021/7/6発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜麃公生還〜  

なんと、秦将・麃公さんが生きていました!よかった!

あれ、麃公さん、鼻血出してます?盗跖ちゃんのセクシーな太モモにやられた?(笑)

 

首をかききられたと思った麃公さんでしたが、マントを留める「留め金」が防いでくれたようです。あと数センチ斬撃がずれていたら、アウト。

 

麃公さん、一回死んで悟ったようです。

 

「この戦が終わったら 秦を出て行くことにした」「秦って国に 俺の居場所はもうない」「そもそも でかい集団の中で 人に従って生きるのは やはり俺には無理だ」

 

ああ、麃公さんは本質的に、組織の中で権力を行使する「紳士」ではなく、自由で気ままに生きていきたい「流氓(りゅうぼう)」なんですね。

 

作者の王欣太先生は、もともと漫画家になりたかったわけではないとのこと。はじめは商社のサラリーマンでしたが、会社が倒産。ふと、漫画賞に応募し、伝説の編集者と出会い……といった流れで漫画を描くことになったそうです。

 

蒼天航路」を連載している時も、「漫画家の次は、あの稼業じゃ!」とコミックのコメントに書かれていたので、基本的に自由人で、流氓度が高いのでしょう。

 

麃公さんのこのセリフは、もしかしたら、欣太先生の思いを一部代弁しているのかもしれませんね。

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<自由に憧れる秦将・麃公〜漫画アクション2021/7/6発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜愚将・蒙武〜  

榮陽に撤退を図る秦将・蒙武。

 

要塞で連合軍を防衛し、撤退するところを追撃、魏国への再侵攻をもくろみますが、「大楚(タアチュウ)!」という数万の軍の喊声にビクッ。

 

楚から侵攻してきた春申君と項燕が合流し、秦軍の榮陽入城を阻止しようとします。

 

「布陣など到底無理!どうすればいいんだーー」

この蒙武くんの顔、もう完全にダメダメな愚将(笑)

 

そこへ、最強のパパ、秦軍総帥・蒙驁が到着。

 

「またしても 戦場で愚息を庇うのか!」「そんな甘っちょろい親心を 虎狼の国がよくぞ許しているな!」という項燕のツッコミは、ごもっとも(笑)

 

しかし蒙驁は、「それは間違いなく 総帥としては致命的欠点であろう!」と認めつつ、生き場を求めて秦へ来たのは親の責任、子の面倒を見るのは当然!と開き直っています。

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<蒙武を助ける蒙驁〜漫画アクション2021/7/6発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜シンドリーム  

そう、蒙驁は斉国から秦国へ流れてきた移民でした。

 

現在にたとえるなら、祖国を捨て、一族でアメリカへ移民してきた親が、子供を助けるのは当たり前。できの悪い子なら、なおのこと助けてやるのが親心ってもんやろがい!と。

 

あらためて、秦という国は、能力があれば成功のチャンスがあるフェアな国。

歴代宰相の范雎や呂不韋なども、他国の出身です。

 

才能があり、機会をつかみ、努力すれば成功できる「アメリカンドリーム」ならぬ「秦夢(シンドリーム)」的なものが、当時あったのかもしれません。

 

周辺諸国から虎狼の国と蔑まれているものの、優秀な人材を集め続ける仕組みがあった。それこそが、秦の強さの源泉だった。

 

礼儀や形式を嫌い、唯才是挙すなわち「ただ才あればこれを挙げよ」と能力主義を推奨した三国志の魏の曹操と、相通じるものがあります。

 

ただ、曹操の場合、結果論ではありますが、優秀な人材を登用し続けた結果、司馬一族が魏国そのものを滅ぼす結果へ繋がりました。

 

秦も、あまりに勝ちすぎた白起は,不遇な最期を迎えた史実があり。

文官はともかく、武官に王の脅威となるほどの力を持たせないようコントロールすること、いわゆるシビリアンコントロールが難しかったことでしょう。

 

これより数十年後の話になりますが,漢帝国の創設に大きな貢献をした名将・韓信も,「狡兎死して走狗烹らる」(兎が捕まれられて死ぬと,犬も食われてしまう。必要な時は重宝がられるが、不要になればあっさり捨てられること)という言葉を残し、処断されています。

 

余談ながら,能力主義という点で日本を見ると,アメリカとは異なり、外国から移り住んだ日本人が活躍したという事例は、あまり聞いたことがありませんね。

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<項燕と対戦する秦軍総帥・蒙驁〜漫画アクション2021/7/6発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜大器・劉邦  

連合軍総司令官・龐煖は、軍の配置を変更。右翼に丹の三侠と盗跖、龐煖。左翼に廉頗、李牧、孟梁。そしてなんと、中央に劉邦を据え、全軍に全速前進を命じます。

 

龐煖は、劉邦のことを「何の問題もない」「あの座りの良さ そして誰より気炎がでかい」といいますが、これはかなり思い切った布陣です。

 

話は脱線しますが、古代ローマの英雄ユリウス・カエサルが、自分の後継者として指名したアウグストゥスは当時18歳。

 

アウグストゥスは、いつも青白い顔をしている虚弱体質。まるで軍才もないどころか、行軍に耐える体力すらない。

しかし、そのような弱点を補って余りある「素質」があると、カエサルは見抜いていた。

 

事実、アウグストゥスは、数々の困難に打ち勝って初代ローマ皇帝となるわけですが(しかも75歳の長寿)、18歳の無名の青年を後継者にしたカエサル(55歳没)の慧眼は恐るべし。

 

通常、王様や首相や社長が20歳に満たない若造に後を託すことはありえないし,世界史上でも、このような世代を超えた見事なバトンタッチの事例はありません。

 

若き日の劉邦にも、様々なエピソードが残っています(後世の創作の可能性もありますが)。劉邦にも、若き日のアウグストゥスのような大器の片鱗が、見る人には見えたことでしょう。

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<気炎を上げる劉邦漫画アクション2021/7/6発売号「達人伝」より〜>

達人伝〜異民族軍団出動〜  

榮陽への入城を図る蒙武は、全軍を入場させるのは無理と判断。洛陽に援軍の要請に向かうため、100騎を従えて離脱します。

 

これを遠目に見ていた盗跖軍団。どうも怪しいということで、盗跖軍団は蒙武を追跡。

 

場面は変わり、洛陽で報告を聞く秦王・嬴政。

「ふんっ 榮陽にさえ停まれぬのか」と、実戦演習として、異民族の直属軍を援軍として送ることを指示。首ひとつに50斤の金を褒賞として与えるよう命じます。

 

金50斤?

1斤は約600gだそうなので、5斤は3000g。仮に、現在の金の価格(1g=約7,000円)を適用させると、2,100万円になります。

 

誠に不謹慎な話ですが、2,000万円少々で殺人を請け負うかといったら、いささか割に合わないように思われますが、それは現代日本の恵まれた人々の感覚。

 

2000年以上前の古代中国で、しかも拉致されてきた異民族がもらえる報酬としては、とんでもなく破格だったことでしょう。

 

そりゃ、モチベーションも爆上がり。

蒙武を追いかけて行った盗跖軍団は、この鼻息の荒い異民族軍団と衝突するのでしょうか?大丈夫か、盗跖!?

 

次回の展開に、乞うご期待です!

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<秦王直属の異民族軍団〜漫画アクション2021/7/6発売号「達人伝」より〜>

 

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