達人伝(王欣太)第158話「アンファン テリブル〜政と邦」感想

【目次】

達人伝あらすじ

中国の春秋戦国時代

 

天下統一を目指す秦に故国を滅ぼされ,親友を殺された荘丹(そうたん)は,秦の野望を砕くことを決意。
 

志をともにする仲間2人と出会った荘丹は,戦国四君(斉の孟嘗君,趙の平原君,魏の信陵君,楚の春申君)の助けを得ながら,秦に対抗する力を蓄えていく。

 

2代続く王の死に揺れる秦に対し,魏の信陵君を盟主に,五国連合軍が結成。

荘丹たちは,少年・邦(バン)=のちの劉邦とともに決戦の地へ繰り出す! 

 

 

ひとことでまとめるなら

 

冷徹で安定した体制の樹立を図る「紳士」(=公権力を持つ人々)と

その阻止を図る「流氓」(りゅうぼう=さすらい歩く人々)

 

の戦いの物語。

 

 

作者は,従来の三国志観にパラダイムシフトを起こした伝説的名作「蒼天航路王欣太(キングゴンタ)先生。 

 

蒼天航路の魅力について100倍くらい書きたいことはありますが(笑),胃もたれしない程度にまとめた感想がこちら。

 

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王欣太先生とは,20年くらいずっと会いたい!と願っており,2019年に実現。

 

怖い先生かと想像していたら,サービス精神あふれる気のいいおっちゃんでした(笑)

でもやっぱり,超一流のクリエイター!と尊敬できる素晴らしい方。

 

ちなみに,「王欣太」は中国人ぽい名前ですが,「蒼天航路」に取り組んだとき中国人になりきって描くぞ!と勢いでつけたペンネームだそうで,ばりばり,コテコテの関西人です(笑)

 

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達人伝とキングダム

「達人伝」は,「キングダム」(原泰久先生・集英社)とほぼ同じ時代。

(正確にはキングダムの数十年前)

キングダムは,主人公の信が秦王・政とともに天下統一を目指し,成長・活躍していく王道の物語で,アニメ版・実写版が映画化されている人気作品です。

 

キングダムは,最新の連載誌までひととおり読んでおり,物語の展開も迫力ある画力も素晴らしい作品と思いますが,個人的には「蒼天航路」以来,王欣太先生の大ファン。

 

 

キングダムとほぼ同じ春秋戦国時代を描きながら

 

・史実に残らない流氓(りゅうぼう)が歴史を動かす斬新な視点

・権力や支配体制にあらがい,自由を追求して連帯する精神

・史実を押さえつつ,予想を遥かに超える解釈と描写

水墨画調はじめ,自由闊達でのびやかな画風

・命を超えて受け継がれる熱い「侠」の魂

 

などの点において

「達人伝」は「知性と感性を圧倒的に刺激する大人向けの作品」です。

 

 

もちろん,人それぞれ好みの違いはあり,誤解のないよう補足しておくと,キングダムが子ども向けというわけでは,決してありません(笑)

 

ある意味で,描き尽くされた「王道路線の歴史もの」のレッドオーシャンで,おもしろく描いて多くの人に受け入れられることは,難事中の難事であり,正義であり,素晴らしい。

 

私自身,純粋に楽しむエンターテインメント作品という意味で,キングダムはめちゃくちゃおもしろいと思います。

 

とはいえ,総合的にはキングダムより断然「達人伝」推しなんですけどね(笑)

 

 

キングダムを読んだり,観たりしたことがある方は,「達人伝」と「キングダム」の共通点や違いを比較する観点から楽しむのも,おもしろいと思います!

 

【達人伝公式サイト】

tatsujinden.jp

【無料で読める「達人伝」ダイジェスト版】

https://www.futabasha.co.jp/tachiyomi/reader.html?pc=1&fd=tatsujinden_digestLR

 

達人伝第158話「アンファン テリブル〜政と邦」〜あらすじ〜

秦の王子・政(のちの始皇帝)を抱きかかえたまま撤退を続ける総帥・蒙驁(もうごう)。

「ここに秦の太子がいるぞー!!」と連合軍に知らせ,追撃を続ける荘丹。

 

「あの太子を奪えば 時勢を止めることができる!」という荘丹に対し,楚の春申君は「早計だ荘丹!太子の代わりは何人もいる!太子の争奪が情勢を左右することはない!」

 

しかし,荘丹は「春申君!あの子供は 天下を奪い 暗黒の世を生む!」と言い切り,それを聞いた政は喜悦の表情を浮かべます。

 

春申君は「秦の空洞というものをいち早く見抜いた荘丹ならではの予見か…」と,項燕,龐煖をつき従えて「蒙驁の一瞬の隙も見逃すでないぞ!」と追撃戦の指揮を開始。

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

9代目・盗跖の死体の乗る馬車に追いつき,首領(おかしら)の死を知る手下たちに,荘丹は告げます。

 

「最期は先代に劣らない戦いぶりだった…」

「だけど 怪物のような秦の殺戮魔を仕とめた直後 背後からやられた」

「このまま連れて帰り 君たちの手で手厚く弔ってもらってもらいたい」

「9代目盗跖として 彼が憧れた 先代盗跖のもとへ」

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

連合軍総帥・信陵君は,長年の同志である蔡要の首を手に取り愕然。

 

「なんなんじゃいったいこりゃあ〜」

「曹寛を呼べ!蔡要の身をゆだねた曹寛を〜」

 

怒りの矛先を向けるも,曹寛もすでに討ち死にしていると知り「心棒が抜けてしもうた〜〜」

「蔡要ぉ〜もうお終いじゃあ〜無理じゃ これ以上は戦えん」と崩れ落ちる信陵君。

 

少年・邦(バン、のちの漢の高祖・劉邦)が言います。

 

「情けねえこと 言ってるんじゃねえ」

「春申君も項燕も龐煖も丹の三侠も まだみんな戦ってんだ」

 「蔡要じいちゃんが怒ってるぜ 信陵君」

 

はっと我に返る信陵君。

 

「邦 おまえさんの言うとおりじゃ」

「俺は蔡要と曹寛の命の分も受け継がんといかんのじゃった」

「逃さんぞい 蒙驁ーっ!」と再び追撃戦を開始します。

 

邦は言います。

 

 「天下にはおっそろしく強え奴がいっぱいいて 戦はまじにとんでもねえ」

「そして俺(おいら)はまだぜんぜん子供(がき)だ」

「だけど そんな子供の言うことをまともに丸ごと受け入れちまう信陵君って やっぱりすんげえでっけえ」

 

第158話はここで終了します。

 

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<蔡要の死を悲しむ信陵君〜漫画アクション2020/5/5号「達人伝」より〜>

 

【前回第157話はこちら】

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達人伝第158話「アンファン テリブル〜政と邦」アンファン テリブル

タイトルの「アンファンテリブル」の意味がわからず,調べました。

 

アンファンテリブルとはおそろしいほど遠慮がなく、その発言によって両親や他人を困惑させる子どものことで,フランスの詩人ジャン・コクトーの中編小説のタイトルでもあります。

 

フランス語でアンファンは子ども,テリブルはおそろしいの意。

直訳すると,おそるべき子供,すなわち「秦の始皇帝となる政」「漢の高祖となる邦」。

 

第158話をひとことに集約するなら,まさに「アンファンテリブル」。

古代中国を描きながらフランス語の表現を取り入れ,圧縮・昇華させるセンスに脱帽です。

 

 

連載作品のタイトルは,毎回ゴンタ先生が考えているのでしょうか?

それとも、出版社の編集者さんが考えているのでしょうか?

 

最近,蒼天航路のコミック27,28巻を読み返していました。

 

「乱の華」「半世紀の武人」「笑殺」「Pinpoint rush」「無双の守護心」「鬼才の本領」「錦馬超」など,漢籍の素養やセンスを感じさせる練られたタイトルだと改めて驚きました。

 

 

そういえば,蒼天航路がモーニングに連載されていた当時(2003年),第309話「鷹の習性」のリード文にも唸った記憶があります。

 

リード文はコミックに掲載されておらず,17年前のおぼろげな記憶をたどるしかありませんが,たしか以下のようなものでした。

 

「苛烈な大地に咲いた白き義憤の花は 黄河の水面を紅に染め 蒼き巨人を漆黒の闇に沈めんとす」

 

馬超曹操黄河に追い詰めたシーンです。 

馬超は「白き義憤の花」,曹操は「蒼き巨人」。

 

 黄河「紅」「漆黒」と各要素を対比的に色鮮やかに描き出し,曹操,許褚,馬超の3人が黄河の水面に写る秀逸な構図と相まって,唸りながら何度も読み返し暗記してしまった記憶があります。

 

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<(上から)馬超,許褚,曹操蒼天航路コミック27巻より〜>

 

達人伝第158話「アンファン テリブル〜政と邦」〜秦の王子・政〜

政はもう完全に悪キャラです。

 

ゴンタ先生には申し訳ありませんが,どうしても先に読んだ原泰久先生「キングダム」の描く政のイメージと対比してしまいます。

 

すると,達人伝・政の冷徹ぶりはキングダムの名君・政と180度異なり,もはや気持ちがいいほどです(笑)

 

「なんだあいつは?」「ちっ」「あいつめ〜」という言葉や表情の端々から窺える,政の唯我独尊的で酷薄な性格。

 

きわめつけは,荘丹が「あの子供は 天下を奪い 暗黒の世を生む!」の政の表情。

 こんなこと言われたらふつうの人は怒りますが,政は喜んでしまうんですね。

 

ちなみに,このときの蒙驁さんが,「えっ,オレ,とんでもないやつを守ってるの!?」と愕然とする表情をしていて,有能な家臣の葛藤を想像させられる深いひとコマです。

 

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<荘丹,蒙驁,政〜漫画アクション2020/5/5号「達人伝」より〜>

 

 

政の肉体を流れるのは,秦の命運を握る大宰相である実父・呂不韋の血。

政の人格を形成したのは,人質として命を狙われてきた過酷な環境。

 

仮に,「才能」×「環境」×「運」×「努力」で人生の成功が決まるとするなら,「努力」なんてものはちっぽけで,それ以外の要素が圧倒的に大きいと私は思います。

 

プロとして成功する条件を聞かれたゴルゴ13の答えは,「10%の才能,20%の努力,30%の臆病さ,40%の運」。

 

ゴルゴ13ほどの超一流のプロですら,40%は運というのです(漫画の話ではありますが)。

 

まじめな人ほど「努力」が絶対的に大切と考えるでしょうが,もちろん努力なくして開花しないのでしょうが,個人的にはそれ以外の要素,特に「運」の要素は大きいと思うんですよね。

 

「才能」「環境」「運」を備えた政は,なるべくして政となり,中華史上初となる始皇帝への歩みを進めていくのでしょう。

 

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<秦の王子・政〜漫画アクション2020/5/5号「達人伝」より〜>

 

達人伝第158話「アンファン テリブル〜政と邦」〜劉家の少年・邦〜

邦ちゃんは,まっすぐでいいですね。

 

私たち大人は,思いがけない衝撃的な出来事が続くと,動揺のあまり本質を見失い,もういかん!と動きを止めてしまうことがあります。

 

そんな大人に子どもの正論。

 

しかも,血の通わない冷たい理屈を述べるのではなく,短期間とはいえかわいがってくれた蔡要の死に対する悲しみを表情にあふれさせつつ,それを乗り越えていこうと。

 

感傷をすべて呑みこんだうえで正論をいわれては,身もふたもありません。

 

それでも,ふつうの大人であれば「子どものおまえに大人のなにがわかるんじゃ!」と一喝するところ,丸ごとすんなり受け入れてしまう信陵君の懐のふかさ。

 

史実でも,邦ちゃんは漢の高祖となってから信陵君の祭祀をたびたび取り行い,部下に墓守の役目を与えたそうです。

 

2人の絆がうかがえる,心あたたまるエピソードです。

 

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<のちの劉邦となる少年・邦(バン)〜漫画アクション2020/5/5号「達人伝」より〜>

 

達人伝第158話「アンファン テリブル〜政と邦」まとめ〜 

追撃を再開した信陵君は,再び蒙驁に追いつくことができるのか?

秦軍は無事,函谷関へ逃げ込むことができるのか?

連合軍vs秦軍の大戦の帰趨はどうなるのか?

 

次回に乞うご期待です!

 

【「達人伝」コミック25巻の感想】

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