映画「アメリカン・スナイパー」レビュー〜米軍史上最多160人を狙撃した優しい父親〜

 これは凄い。

「偉大なるアメリカ」の明と暗のイメージを,あますところなく表した,実話に基づく映画です。

 

監督は,クリント・イーストウッド

イーストウッド監督の作品といえば「グラン・トリノ」「ミリオンダラー・ベイビー」で深く静かな余韻にしびれましたが,「アメリカン・スナイパー」も勝るとも劣らない素晴らしい作品です。

【目次】

【あらすじ(ネタバレなし)】

主人公のクリス・カイルはカウボーイ気取りで,彼女にも逃げられるフラフラした生活を送っていたが,一念発起して海軍に入隊。

心身を鍛えあげ,狙撃の才能が開花したカイルは,特殊部隊シールズに入隊。

自信を取り戻したカイルは愛する彼女もできたが,イラクへ派遣される。

 

カイルの任務は,部隊が制圧地で任務を遂行できるよう,狙撃兵として物陰から障害となる敵を排除すること。

カイルの最初の「仕事」は,対戦車爆弾を投げようとする子供の狙撃となった。

超人的な働きを見せるカイルが狙撃した人数は,アメリカ軍史上最多となる160人。

 

しかし,カイルは次第に精神を病んでいく。

帰国して,安全な環境で妻や子供たちと過ごしていても,心ここにあらず。

ちょっとした物音に過剰反応したり,戦地で苦しむ同胞のため自分は戦地へ赴いて使命を果たすべきではないか,と苦しむ。

 

仲間から「レジェンド」「英雄」と呼ばれるようになったカイルは,4回目の派遣で,米軍を度々妨害する敵スナイパーの排除が任務として与えられる。

「ムスタファ」と呼ばれる敵スナイパーは元オリンピック射撃選手で,1,000m先からの狙撃を得意とする凄腕。

 

カイルの任務は成功するのか?

無事,帰国することはできるのか?

【ポイント①:狙撃手の重圧】

狙撃手といえば,ゴルゴ13のように特定のターゲットを狙い続けるイメージでした。

しかし,軍における狙撃手の役割は,敵地の制圧作戦を安全に進めるための援護。

部隊は,「狙撃手が障害を排除してくれる!」と信じるからこそ,危険な制圧地にも進軍できる。

 

狙撃手は敵に悟られないよう何時間も腹ばいの姿勢で,集中力を切らさず,危険を監視し続けなければなりません。

自らは比較的安全な場所に潜伏しているものの,注意を怠ったり狙撃が失敗すれば味方を助けられず,非難も免れず,その精神的,身体的な重圧は計り知れません。

【ポイント②:正義は我にあり】

精神科医を訪れたカイルは,「自分の行為に後悔はない。自分が敵を狙撃したおかげで,数多くの同胞を救うことができた。神の前でも釈明できる」と言い放ちます。

 

これは,いかにもアメリカ的な「正義は我にあり!」という発言で,非常に違和感があります。

自分がした行為は,大切な味方を救うためであり,あくまで正義。

敵は仲間を殺そうとする残忍な野蛮人であり,それを排除することにためらいはない。

 

しかし,憎い敵にも,妻,子供,親,きょうだい,友人がいます。

カイルは,自分の行為は正義であると自身に言い聞かせつつも,本能的にその罪深さに気づいていたからこそ,精神を蝕まれていったのではないでしょうか。

【まとめ】

単純な「正義は我にあり」「アメリカ的ハッピーエンド」のストーリーだったら,ここまで感動しなかったでしょう。

 

イーストウッド監督は「心の闇」をよく知り,怖いほど,憎いほど,美しすぎるほど,死のドラマチック性を表現することにすぐれた監督です。

 

ネタバレになるのでこれ以上詳しいことは言えませんが,まあ,一度見てみてください!(笑)

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