本にもな,オスとメスがあるんや。
この本は,まぎれもなく本のオスや。
最近ではめずらしい,本のオスや。
これ以上この本の本質を鋭く言い当てる言葉はなく,これ以上の言葉は不要。
でも,語りたいので勝手に語ります(笑)
それは,王欣太(キングゴンタ)先生の漫画「HEAVEN」です。
【目次】
「HEAVEN」(王欣太)とは?
「HEAVEN」は,1990〜1992年にアフタヌーンに連載された王欣太先生のデビュー作。
講談社漫画文庫刊,全20話構成の660ページ。
王欣太先生といえば,代表作「蒼天航路」が有名であり,現在も春秋戦国時代を舞台に血湧き肉躍る「達人伝〜9万里を風に乗り」を連載中です。
ちなみに「 達人伝」は,原泰久先生「キングダム」より少し前の時代。
生涯100万人を殺した史上最凶武将・白起,少年時代の秦の始皇帝・政,その宰相となる傑物・呂不韋,後に漢の高祖となる少年・劉邦などが登場してきて,こちらも目が離せません!
「HEAVEN」(王欣太)との出会い
私は,連載中から「蒼天航路」のファンであり,もっともっと王欣太先生の作品を読みたい!と2001年に入手したのが,この「HEAVEN」でした。
しかし,当時はこの作品の良さがいまいち理解できませんでした。
「蒼天航路」と比べると絵のタッチは荒々しく,酒,暴力,セックスが渦巻く世界観。
かといって,ドロドロした暗い話ではありません。
自由奔放な街「ヘブン」を舞台に,陽気で腕っぷしが強い主人公トーマが,ありとあらゆるトラブルに刺激的かつ愛あふれるアプローチで挑んでいく,笑いあり涙ありのストーリー。
文句なくおもしろいものの,「蒼天航路」のような史実に基づくカッチリとした世界観を期待していた私は,ちょっと肩透かしを食ったような気がしました。
「HEAVEN」(王欣太)の魅力再発見
ところが今,あらためて読み返してみると,これがじつに味わい深く,身に沁みてくるのです。
「デビュー作には,作家のすべての萌芽が潜在している」といいます。
まさしく,1話1話がそれだけで小説や映画1本として成立しそうなほど濃厚で練り込まれており,王欣太先生の原点が凝縮されている!と感じました。
「HEAVEN」(王欣太)のストーリー
具体的にどんなストーリーなのか,お気に入りのあらすじをいくつか紹介します(ネタバレなし)。
-
退屈しのぎに自分の命を狙うよう殺し屋を雇った老人が,トーマにボディーガードを依頼したところ……「The ENTERTAINER」
-
5,000万円を賭けて,トーマと仲間のどちらが先に競馬場へ着くか競走したが……「The DOGRACE」
-
天才女性写真家がトーマの日常を撮影。自然体を崩さず,思うような写真が撮れない苛立ちから殺そうとして……「LOVE SHOOTING」
-
余命いくばくもなく,自暴自棄で酒ばかり飲んでいたワンマン社長が酒場でトーマと出会い……「THE NIGHT SPIRIT OF HEAVEN」
-
老大文豪が大女優の家から「あるもの」を盗んでほしいとトーマに依頼。大女優と鉢合わせしたトーマは……「OLD LOVE LETTER」
-
本物の予知能力があるものの,ヘブンに来て自信喪失していた予言者。トーマは彼を立ち直らせようとして……「PROPHET」
-
最愛の彼女にフラれ,酒に溺れてすさんだ日々を送る画家。モチベーションを失った彼にトーマは……「FLIP,FLOP & FLY」
-
たこ焼き屋のおばあちゃんの孫娘が大富豪と結婚。街を挙げて大富豪を歓待するが,トーマは……「THE STREET STAND LADY」
-
クビになった芸人を助けるため,10年間笑っていない大御所社長を笑わせる約束をしたトーマは……「THE BIG BOSS OF COMEDY」
-
シーズン最下位の野球チームが,ヘブンの草野球チームと対戦。豪速球投手は本気でトーマと対決して……「PRIMITIVE BASEBALL」
-
夫を亡くし,孤独にカフェを営む女性にひそかな思いを寄せる男。彼女を慰めてほしいと男はトーマに頼むが……「LUCKY CAFE」
-
トーマと意気投合するヘブンの市長が,トーマともどもヤクザ議員に監禁拘束。脱出を図る二人だが……「THE MAYOR」
ああ,全20話のうち,ついつい勢いに乗って12話も紹介してしまいました。
どれも,続きが気になるでしょ?(笑)
全編ハズレなし,珠玉の短編集です。
「HEAVEN」(王欣太)まとめ
王欣太先生は大阪出身。
大阪弁のトーマは欣太先生の分身とのことであり,「ヘブン」は大阪をベースに昇華させた理想郷「天国」かもしれません。
私はかつて京都,奈良に暮らしたことがあり,そのまま骨を埋めるつもりでした。
義理人情に厚く,勢いが大事で,ちょっとコワい(笑)大阪〜 関西の風土や人々が好きなので,「HEAVEN」も大好きです。
一方,このような作品は,現在私が住むおとなしい仙台〜東北の風土から創造されることは考えづらく,好き嫌いもわかれることでしょう。
お上品な方には,あまりオススメしません。
「HEAVEN」はまぎれもなく「オス」の本です。
ピンときた方はぜひ!
【あわせて読みたい】