【ReMember(王欣太)レビュー】時を超えて再結集する仲間の熱き戦いの物語

ある漫画の登場人物が大好きで,わが子に同じ名前をつけました。

といったら驚きますか?

「ある漫画」とは,「ReMember」。

「登場人物」とは,「レイジ」です。

【目次】

「ReMember」(王欣太)とは?

「ReMember」は,2010年〜2012年にモーニング誌上で掲載された王欣太(キングゴンタ)先生の作品。

王欣太先生といえば,三国志の常識をひっくり返した「蒼天航路」が有名ですが,その蒼天航路の完結以来,5年ぶりに週刊連載された作品です。 

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連載当時,私は東日本大震災後の仙台で復興業務に携わっており,精神的に鬱々とした日々を送っていました。

「ReMember」の舞台は,第二次世界大戦後の焼け野原。

「戦後と震災後って,似てるよなあ」と思いながら,毎週食い入るように読んでいた記憶があります。

「ReMember」王欣太あらすじ

1945年9月9日,終戦直後の焼け野原に記憶喪失の男が立っていた。

自分はどこから来た何者なのか?

男はヤクザの朝本組・イチと出会い,イチと抗争する劉(リュウ)と戦う最中,劉が無意識に「ザジ」とつぶやいたことから,「ザジ」が通称となる。

闇市ではヤクザ,テキ屋,中華系マフィアが利権を巡って激しく争っており,ザジは闘争の渦中に巻き込まれ,自らの正体に迫っていく。 

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<記憶喪失の主人公・ザジ>

「ReMember」王欣太魅力その1

とにかく,登場人物が熱くカッコいい!

その中でもお気に入りナンバーワンが,冒頭に挙げた「銅(あかがね)のレイジ」こと火野零次(ひのれいじ)です。

 

身長180センチ,体重68キロ,切れ長の目にオールバック,細身のスーツにエナメル靴,長ドスが好み。

面倒見が良い一面と冷酷で高慢な一面をあわせ持ち,スリルと興奮が飯より好き。

 

朝本組の親分は,その戦う姿を見て「おおっ零次!やはり速い!やはり美しい!だがやはりちと残虐!」と,その魅力を端的に表しています。

仲間にも,危うい,破滅する,早死にするぞと言われ,レイジは「仕方ねえ 2月28日生まれの性分だ おまけに死に損ないときてる」と答えており,「不死身のレイジ」の異名も持ちます。 

 

レイジは,クレイジーなクールなさとともに心の奥底に熱い魂がたぎっており,以下のようなセリフを吐いています。

「われわれは抗い続けるぞ!」

「リメンバー!命を引き寄せろ ボス!」 

「あんたの指示を待つまでもなく 俺は俺の直感に従い動く それが俺たちの勝機を切り拓くはずだ 俺を顧みず戦え」

生き方に美しく一本筋が通っており,クール&ホットのギャップと強烈で刹那的なキャラクターがたまりません!

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<右のタバコをくわえているのがレイジ>

冒頭,わが子にレイジと名づけたと書きましたが,正確にいうと,名づけようとして断念しました。

生まれた息子の名前を妻とよくよく相談した結果,「漢字はまだ決めてないけど,レイジにしたんだ」と親に報告したところ,「なんだそのヤクザな名前は!やめとけ,やめとけ!」と父母にそろって猛反対されたのです(汗)

 

私は内心,「なぜ,レイジがヤクザとわかった?「ReMember」読んだことないよなあ?」と思いつつ,「全国のレイジさんに失礼じゃないか!」と言いました(笑)

しかし,父母にとってレイジという名はヤクザなイメージであることは事実であり,これは父母世代(父は1947年,母は1950年生まれ)に共通するイメージの可能性もある。

それをあえて息子に背負わせるのはかわいそうと思い,断念しました。

 

その後,出生届の提出期限ギリギリまで悩みに悩み,「ソウタ」と名づけました。

今のところ,見た目,性格ともに,「レイジ」というキレッキレの感じではないですね〜(笑)

「ReMember」王欣太魅力その2

うかつなことに連載当時は気づかず,今回あらためて読んで気づいたのが,「ReMember」というタイトル。

「remember」は,「覚えている,思い出す」という意味ですが,タイトルの「ReMember」はRとMが大文字になっており,「Re」と「Member」に分解されます。

つまり,「Re」は「再び,新たに」という意味を持つことから,「Re」+「Member」は「再び結集した仲間」と読めます。

 

ネタバレになるので詳細は書きませんが,まさに「ReMember」とは,主人公ザジを中心として,悪意により繰り返される絶望的な悲劇に抗うため,記憶を留め,持ち越し,再び仲間が結集しようとする戦いなのです!

 

たとえるなら,前世において戦争により無念の死を遂げた戦友たちが,二度とその悲劇を繰り返すまいと深く心に誓って現世に生まれ変わり,再び出会い,戦争の元凶と戦うといったストーリーです。

 

仏教に「対面同席五百生」(たいめんどうせきごひゃくしょう)という言葉があります。

対面し,同席している人とは,前世で最低500回はともに過ごしてきた過去がある,という意味です。

 

初対面なのに,妙にフィーリングがあったり,意気投合したりする経験はありませんか?

それは価値観が近いからとか,生まれ育った環境が似ているからとか,科学的,客観的にそれっぽい理由づけはいくらでもできますが,私は信じたい。

前世の存在は証明できないだろうけど,存在しないことも証明できず,だったら信じた方がロマンがあり,人生が豊かに感じられ,楽しいからです。

 

「ReMember」の世界では,敗戦の余燼くすぶる闇市で好漢,悪漢たちが血と汗と涙を流して日々格闘しており,冷酷な悪意に対して,時を超えて再びの結集を図り抗おうとする男たちの生き様に圧倒されるのです!

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<左=ヤクザの千代蔵,中央上=テキ屋三代目・音山象三郎,右=ヤクザのイチ>

「ReMember」王欣太まとめ

敬愛する開高健氏が,最近これといって味わい深い顔をした人間がいない,みんな生き方が薄っぺらで顔ものっぺりして個性がない,ということを何かで書いていましたが,「ReMember」に登場する人物は,悪人も善人もじつに味わい深い。

 

たとえば,ヤクザの組長・朝本は,「人に親分と呼ばれる者は 常に堂々と姿を晒し 生きるもんだ」と語り,路地でキャッチボールしているところに,敵の組員が車で突っ込んできます。
銃撃された子分があえなく息絶えると,朝本はその亡骸を両手で抱きしめ,怒りで青筋を立てながら,「ぶわっ はっはっはっ はっはっはー」「空しいぞ〜〜悲しいぞお〜〜」「なんで俺は笑っとるんだ〜」と語ります。


ここで,泣くのではなく,笑うんです!

さすがのレイジにも「困った人だ」と言われちゃってます。

私が国語の教師なら,「朝本はなぜここで笑ったのでしょうか?その理由を説明しなさい」という良問(難問?)を出題するところです(笑)

それはさておき,これぞ昭和の侠客というか,常人には理解できない感覚,器を痛感させられる秀逸なシーンです。

 

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<「ReMember」1巻 memory6「焼け跡のほとりで」 P154より引用>

このセリフ,この絵力,この迫力を見てください!

じつに味わい深い!

好き嫌いはあるでしょうが,ピンと来た方は王欣太ワールドをぜひご堪能ください。

 

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